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ここ、とある世界のイタリアと言う国・・・ 僕、クロノ・ハラオウンはこの地に立っていた、勿論、旅行やバカンス・・・と言う意味合いもあるが仕事も兼ねてだ。 まあ、少々長めの休暇なので、じっくり腰をすえて仕事もしろという裏の意味はちょっと気が重い。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「艦長、お呼びですか」 アースラの艦橋に呼ばれた僕に 「クロノ、手短に言うわ、仕事を含めてバカンスに行く気は無いかしら?」 母さ・・・リンディ提督は有無を言わさず予定を告げた。 「・・・自分にも執務官の業務があるのですが・・・」 「それを含めて、よ、取りあえずこれを見て、エイミィお願い」 「はいはい・・・これ・・・だっけか?」 コンソール上に複数の風景や街並み、文化レベルや政治形態のデータがまとめて表示される。以前見たなのはの世界と似たような世界であったが・・・犯罪計数や治安を含めて、多少粗野な印象を受けた。 「これは?」 「管理外世界、その中でもかなり奇妙・・・というか文化レベルのおかげで介入が非常に難しい世界よ」 「汚職政治がまかり通ってる所為で管理局も全然手をつけられないし、魔法なんかぶっ放せばさらに大騒ぎ・・・それをネタにゆすり、たかり、etcetc・・・」 エイミィがやれやれと言った感じで首を竦める、確かに好き好んで臭いものに手をつけるのは酔狂か物好き位だろうか。 「この世界は放置しても構わない・・・と思っていたんだけど・・・これね・・・」 画面上に一組の弓と矢が表示される。かなり特異な形状でただの狩猟道具では無い様だ・・・加えて我々が目をつける物体と言えば・・・ 「ロストロギア・・・ですか・・・」 「ええ、詳しい効果や能力は不明だけど・・・これに関わった人間が奇妙な行動を取ったり、謎の死を遂げたりしているわ・・・その中でもこの例・・・」 画面に奇天烈な髪形をした学生制服の男と、スーツを着た男が向き合っている。写真は少々画質が荒いがかなり緊迫した状況なのが見て取れる。 「エイミィ、これに魔力スキャンをかけてくれる?」 「了解、ペコポコペンと・・・」 「・・・これは!?」 魔力スキャンをかけると、男達の魔力反応・・・に加えてその身体の傍にもう一つ人型の強力な魔力反応が見えた。 「これは魔法をこの世界の体系で使用した例のようね、関係者は『スタンド』と呼んでいるわ・・・動画を」 魔力スキャンのまま男達が動く、いくつかの動画が撮影されていた様で、スーツの男はいくつかの魔力弾を飛ばし、学生服の男は仲間の傷を治している・・・更にはもう一人の男はいきなり信じられない速度にまで加速したり、移動したりしている。 「馬鹿な・・・魔力操作、治癒魔法・・・?に・・・転移、じゃない、時間操作!?」 「そう、こんな高レベルの様々な魔法が何の法整備も無く使用されている・・・これはかなり危険だわ」 「原因は・・・ロストロギアですか」 「全部ではないわ、でも何らかの組織が意図的に魔術士を量産した、と言うのが私達の推測」 成程、と言う事はある程度そのロストロギアは管理、運用されていると言う事になる、しかしそこが良心のある組織と… 「そしてこの影響が顕著なのがこの世界のマフィア、ギャングの溢れる地域、イタリアと呼ばれているわ」 …良心とは程遠い単語がいくつか飛び出した・・・少々落胆しつつ話を続ける。 「ロストロギアなら多少文化レベルの低さに目を瞑っても介入する必要がある・・・ですか」 「かしらね・・・それともう一つ、ここ最近起こっている魔術士襲撃事件・・・あちこちの世界に被害が散らばっていて加害者の居場所すら発見できなかったんだけど・・・」 「この世界に介入した魔術士数名と魔力を持つ一般人が被害を受けてさ、その事件発生までの速度から犯人はこの世界に潜伏していると断定されたよ」 ここらへんで話が読めた・・・つまりは・・・だ。 「僕にこの世界への潜入捜査をしろと・・・内容はロストロギアの監視、連続魔術士襲撃事件の解明及び逮捕・・・そんな所ですね?」 二人は軽く微笑 「かなり危険な任務となるわ、場合によってはアースラも外部待機として同世界に乗員が支部を構える用意も出来てる・・・それと現地のとある組織と交換条件でね・・・これを」 一枚の写真、それには黒髪の少年が写っている。 「汐華初流乃、その人物の皮膚、血液なんでもいいから体組織を持ってきて欲しいそうよ・・・その代わり、現地の拠点を用意してくれるらしいわ」 「体組織・・・?何者なんですか?この少年は・・・」 「『それを調べている・・・危険な人物ではない、だがなるべく接触を避けて欲しい』・・・だそうよ・・・」 「先ほど話した・・・『財団』・・・と言う組織の人員ですか?」 「うん、通話だけのやり取りだったんだけどね、ついでにグレアム提督が上層部に掛け合ってくれて、この件に関わる人員にはあらゆる権限を約束する・・・つまり、有事の際には本気モードでいいって事だよ、クロノ執務官?」 「茶化さないでくれ・・・捜査は単独でしょうか?」 「人員補充は随時可能、条件は『君の信頼できる人材』だそうよ?」 信頼できる・・・僕は武装局員や一般局員を信頼していない訳ではない・・・が、戦力的な信頼と言う点で自分と同等もしくは自分以上の戦力なら、数は非常に限られる。 それに、個人的な付き合いは自慢じゃないがあまり無い。やはり、思い浮かぶのは彼女・・・それと周りの人間・・・今は義理の妹。 「ロストロギアの捜査はともかく、襲撃事件の犯人と交戦の可能性を考えると・・・戦力は高い方がいい、協力者を呼んでいただけますか?」 「妹さんと、彼女だね?」 僕は無言で頷いた。 「高町なのはと使い魔・・・じゃなかったユーノ・スクライアに交信を頼む」 場所は変わって クロノの向かう筈の世界のとあるマンション、障害者が多く住むイタリアではまだ珍しいバリアフリーのマンションの一室 「到着~八神特急終点です~」 「ちょっと遅延やったけどな、ありがとシャマル」 「お帰りなさいませ主、帰りが遅いので心配いたしました」 「お帰りはやて!」 車椅子に乗った少女にそれを押す女性、駆け寄ってくる赤髪の少女と大型の喋る犬 八神はやてとその家族は財政支援を受けつつ慎ましく暮らしていた。 「シグナムは・・・今日は遅いんか?」 その場に居ないもう一人の家族を案ずるはやて。 「ん~、なんか散歩、周囲の警戒も兼ねてるんだって」 「あまり此処は治安が良いとは言えませんからね・・・マンションは個別に鍵掛けてるから大丈夫ですけど」 「そか・・・でも気つけてほしいな・・・心配や」 「だいじょーぶだよ、シグナム怒るとおっかねぇしさ」 「うん・・・ん?・・・あ、留守電か?」 メッセージが三件入っている、一つ目は通院している医師の物で、既に聞いたものだったが・・・ 『あ・・・その、ドッピオです・・・昼頃その・・・あ、いや、ちょうど留守の時みたいだったんで・・・夜頃お伺いしても、良いでしょうか?・・・お電話待ってます』 「ドッピオさんですね、まめに気遣ってくれてありがたいです」 「そやな~おっちょこちょいだけどいい人や」 「あ・・・やべ」 「どしたん?ヴィータ」 二件目のメッセージ 『えと、あ・・・ドッピオです・・・ヴィータちゃんに聞いたら六時頃みんな帰ってくるのでその時に・・・と言うので・・・ちょっと遅いですが、七時ごろお伺いにさせてもらいます・・・』 現在時刻、六時四十五分 「あかんー!ザフィーラ、ヴィータ部屋片付けてー!シャマルは料理手伝ってぇな!!」 「ヴィータちゃん!どうして勝手に呼んじゃうのー!」 「だってさー!遅れるなんて思わなかったから」 一瞬にして騒然となる八神家にシグナムが帰ってきた。 「主、遅れて申し訳ありません・・・外でドッピオ殿が時間を潰していた様なので家に来ていただきましたが・・・」 全員が凍りついた。 海鳴市、高町家なのは自室にて 「と言う事だけど・・・どうする?」 フェレット姿から、人間の姿に一時的に戻り、ユーノ・スクライアが携帯からの魔道文書に目を通しつつ、なのはに聞く。 「危険なんだよね・・・時間がかかるかもしれないなら、学校もお休みだし・・・お父さんやお母さんにも心配かけちゃう・・・」 「フェイトは嘱託魔導師試験をクリアしたらしいから・・・もしかしたら会えるかも」 「そうだね・・・会いたい・・・」 胸元のデバイスを握りこみ、腰掛けていたベッドから立ち上がる。 「うん!行くよ!レイジングハートも・・・頼りにすると思うけど・・・」 『No problem』 「わかった、後日リンディさんが理由付けにこっちに来るって・・・しばらくの滞在だからそれなりの理由が必要だしね」 決定の是非は問わなかった、が、ユーノ・スクライアにはなのはが何かに引かれているようだと言う事をなんとなく感じていた。 そう、スタンド使い(魔法少女)はッ!魔法少女(スタンド使い)に惹かれ合う!! 魔法少女リリカルなのはGE(黄金体験!) 始まります 目次へ 次へ
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魔法少女リリカルなのは GG ver.β duel 1 KEEP YOURSELF ALIVE 2.5 duel 2 It Was Called Victim duel2.5 Sack A Sage duel 3 The Mask Does Not Laugh duel 4 Walk in the dusk
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この広い世界には幾千、幾万の人達がいて。 いろんな人たちが、願いや想いを抱いて暮らしていて。 その願いは時に触れ合って、ぶつかりあって。 だけど、その中の幾つかは、 きっと繋がっていける。伝え合っていける。 これから始まるのは、そんな出会いとふれあいのお話。 ――――魔法少女リリカルなのはThe Elder Scrolls はじまります タムリエル。 正確に言えばニルンと呼ばれる世界に複数存在する、大陸の一つ。 その全土を支配している、セプティム朝タムリエル帝国の事を示す。 つまり管理局の見解による『第23管理外世界』とは、この世界の一部でしかない。 とはいえ、このタムリエルのみを『管理外世界』とする判断も、決して間違っているわけではない。 何故ならタムリエルと他大陸の間に広がり、互いの交流を阻む「ムンダスの大海」とは、 我々の認識する「水によって満たされた海」ではなく、異世界と半ば地続きとなっている「精神世界」だからだ。 管理局風に呼ぶならば「ムンダスの大海」は「次元空間」と置き換えても良いのかもしれない。 最も、非常に危険が伴うとはいえ通常船舶で航行が可能な以上、やはり厳密な意味で「次元空間」とは別物なのだが。 結界に揺らぎが見られた時点より密かに調査を実施した結果、上記の通り、ある程度以上の情報収集に成功している。 この世界の文明レベルは中世の封建社会に酷似しており、それほど進歩した技術などは持っていない。 石造りの街並みが広がり、機械類は未だ出現せず、よって世界は「剣と魔法」によって支配、運営されている。 しかしながら魔法技術に関しては、時間や様々な技術的要因から調査は難航しており、現在の所は何も判明していない。 だが、外部世界からの接触を遮断する結界。それも管理局に感知、解除できない結界。 このような大規模魔法を行使できることから、その魔法技術は詳細不明なれども高度であると予想される。 本任務は、その結界の基点であると思われるタムリエル中央、シロディール地方へと降下し、 結界の揺らぎ――即ち大規模次元犯罪の前兆と思われる要因を調査し、可能ならば対応する事である。 この異世界タムリエルは前述の通り、極めて未知の世界に等しく、その調査は多大な危険が伴うだろう。 「――――故にくれぐれも注意されたし、か」 深い森の奥で、なのはとフェイトは出立前にクロノから言われた忠告を思い出し、小さくため息を吐いていた。 成程、確かに注意力散漫であったかもしれない。 タムリエル――シロディール地方に広がる森林の風景は、とても素晴らしいものだった。 他都市に比べて多少なりとも自然の多い海鳴町は元より、ミッドチルダでも、こんなに綺麗な森は無いだろう。 彼方此方から小鳥達の歌声が聞こえてくるし、青々と茂った木々の隙間から差し込む木漏れ日は、とても暖かだ。 目を凝らせば林の奥には鹿の姿も見て取れた。周囲を探せば野兎なんかもいるかもしれない。 そして何よりも、なのはが復帰したばかりであったし、二人っきりでの任務なんて本当に久しぶりだったのもある。 ピクニック気分、とまでは言わなくとも浮かれていたのは事実だった。 そしてこの世界で初めて人影を見かけて、ウキウキと話しかけてしまったことも認めて、なのはは頷いた。 「クロノ君、確かに私達が悪かったかもしれない」 でもね。 だけどね。 「こんな猫さんみたいな人に襲われるっていうのは、注意しようがないと思うの」 「猫じゃねえっ! カジートだッ! 良いからさっさと金を出せ! 無けりゃ親御さんに出してもらうんだなッ! それも嫌だってんなら、ぶっ殺して身包み剥ぐだけだ! どっちにしたって手間は大して変わらねぇんだぞ!」」 一方、吼える猫さんみたいな人――もといカジートの山賊は酷く頭が痛かった。 カジートとは、つまり判りやすく説明するならば『猫の獣人』とでもするべきか。 獅子か猫のような頭部を持ち、その体を覆う毛皮や、尻に生えた尾も獣のそれだ。 そして何より特徴的なのは、その頭部に見合った瞳――暗視の力を持っているという事。 その為、多くのカジートが盗賊や山賊へと道を誤ることが多いのだが、 彼もまた、そうして犯罪者へと成り果てた――新米の山賊である。 基本的に山賊、追剥の類は街道沿いの砦跡や、野営地に居座ることが多い。 街道を行く旅人や何かは旅費を持っている事もあるし、良い稼ぎになるのだが―― その一方で、山賊にとって酷く危険な場所でもある。 数時間間隔で街道を巡回している帝都兵は、駆け出しの山賊にはとんでもない脅威なのだ。 何せ帝国軍正式採用の鋼鉄鎧は酷く頑丈であり、その技量は並々ならぬものがある。 まともに戦ったのでは当然太刀打ちできないし、隠れていても見つかるのが関の山だ。 当然、駆け出しの山賊である彼にとって、街道沿いはリスクが高い。 そこで彼は帝都南方に広がるグレートフォレストの、更に街道から南に外れたあたりを根城としている。 洞窟や遺跡が点在し、新米の冒険者が訪れるこの辺りは非常に良い『穴場』なのだ。 なにせ駆け出しの冒険者というのは新米の山賊と、たいして力量の差が無い。 更には身に着けている装備は高く売れるし、上等な品だったら自分の物にしても良い。 勿論、返り討ちにあう可能性だってあるのだが――今回に関しては、その心配はなさそうだった。 何せ上等そうな衣服を身に着けた少女が二人、だ。 杖を持っているのを見た所、魔術師の類かと思って警戒したが……呪文を唱えてくる気配も無い。 というか、このシロディールでも見たことのない形の杖だ。 噂に聞くMOD(意味は知らない。彼はモロウウィンド産だろうと見当をつけているが)とかいう品だろうか。 何にせよ、高値で売り飛ばせるのは間違いあるまい。 「なのは、なのは。ひょっとしたら猫じゃなくてライオンなんじゃないかな」 「そっか……ごめんね、ライオンさん。間違えちゃったよ」 「だーかーらーっ!!」 ああもうやり難いなァッ! まったくもって緊張感が無い。――どこぞの箱入り娘か何かだろうか。 カジートの存在すら知らなかったようだし、そうと見て間違いは無い筈だ。 噂じゃあ、レヤウィンの伯爵夫人は酷い異種族嫌いだとかで、 折りを見ては異種族人を拷問にしかける――のだそうだ。 まあ、其処まで過度じゃないにしろ、差別主義者に育てられた良いところの娘達。 ――なんてところだろう。 こうして威嚇の声を上げて斧を振り回してもまったく動じない辺りを見ても、 やっぱり世間に慣れてないに違いない。 ――そうやって声を荒げるカジートに対し、なのは達もまた途方に暮れていた。 いや、確かに強盗に襲われるなんてのは二人とも初めての経験だったが、 今までの人生――特にここ数年で――それに倍する程の修羅場を潜り抜けている。 それに第一……その、何だ。持っている武器がデバイスでも何でもないただの鉄の斧では……。 正直、バリアジャケットや防護シールドを抜けるとは思えないし……。 彼の纏っている革鎧だって、此方の砲撃魔術に耐えうる品だとはとても……。 「どうしようか、フェイトちゃん?」 「この世界のお金なんて持って無いし――……」 「……泥棒さん相手だったら、お話を聞いてもらうのも、良いと思うの」 「それはちょっと、物騒なんじゃないかなぁ……」 「てめえら、何をごちゃごちゃ喋ってやがるッ! うるさ「いや、五月蝿いのはお前のほうじゃないか?」 その声は、なのは達の背後から、本当に突然響き渡った。 驚き、振り返った二人の前にいたのは――――影のような男。 本当に今の今まで、彼が存在する事にまるで気がつかなかった。 果たして何処からか転移してきたのだと言われても、疑う事は無かっただろう。 或いは、ひょっとするとそれは、このカジートの山賊も同様だったのかもしれない。 明らかに視線の先――視野に入っていたはずの空間に、突如現れた人物を、 彼はこの世のものでない物を見るように見つめていた。 何故なら、その腕には既に弓が引き絞られていたからだ。 この距離だ。弓に矢をつがえる前ならば斧を持つカジートに分があった。 だが、既に矢をいつでも発射できるのなら……話は別だ。 よほど下手な射手でもない限り外すことはないだろうし、 そしてこの男が『よほど下手な射手』である事に賭ける勇気は無い。 だがカジートの山賊は、それでも精一杯の虚勢を張って叫んだ。 「なんだ、てめぇっ! 俺の獲物を横取りする気か!?」 「特段、そんなつもりは無いが。 此方としては彼女達を見逃すのと、少し夢味が悪くなりそうでね。 なので止めに入らせて貰った。 良いから早く逃げ出す事をお勧めする。さもなければ君の頭を射抜くだけだ。 ――どちらにしても、手間は大して変わらない」 その最後の言葉――つまり『いつでも殺せた』という一言が、決定打だった。 カジートは泡を食ったように斧を放り出すと、一目散に街道のほうへと走り出していく。 当然の判断だったろう。それは、なのはとフェイトにも良く理解できた。 この影のような男は、最初から見ていたのだ。一部始終を。 そして――……三人が三人とも、その存在に気づかなかった。 どれほどの力量の持ち主だというのか。 ――若干12歳の二人には、とてもじゃないが見当がつかない。 「……やれやれ、まったく。 ガードの奴ら、鹿狩りには熱心な癖をして街道外の山賊退治は……。 君達、二人とも怪我は無いかい? どこの出身だか知らないが、街道や街から離れない方が良いぞ」 そう言いながら近づいてくる男に対して、二人は礼を言うべくその顔を見上げ――そして固まった。 クロノ君。確かにクロノ君の言うとおり、この世界は色々とわからないことが多いみたいです。 だって、その、さっきの猫さんにも驚いたけど――この人。 助けてくれたし、すっごく優しそうな声なんだけれど、そのお顔が――……。 「「……蜥蜴さん?」」 ……アルゴニアンだ、と蜥蜴頭の男は、苦笑しながら訂正した。 戻る 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2308.html
―――――私は勇者なんかじゃない。 偶然に世界の命運なんてのを託された、運が悪いだけの一般人さ。 私に任された仕事は、本当は私以上に適任の奴がいるはずなんだ。 例えば伝説の英雄とか、聖なる騎士とか、本当の勇者とか、な。 だが運の悪いことにそいつは現れない。 もしかしたら、はじめっからそんな奴はいないのかもしれない。 だから勇者のふりをするのさ。 強くもないのに、強がりながら。 空が燃えていた。 大地は裂け、炎が荒れ狂い、街を呑み込んでいく。 通りを駆け抜けるのは名状しがたい異形ども。 禍々しい鎧兜を纏った戦士達や、冒涜的な姿の怪物たち。 誰の眼にも明らかだ。 かねてより警告されていた通り『門』が開いたのだ。 そして彼らは『門』を通って、地の底より這い出た存在。 ――極めて古典的な名前で呼ぶならば、 『悪魔』 そう形容されて然るべきものであった。 多くの住民が家に閉じ篭って全てが終わるのを待ち、 或いは逃げるのに間に合わず、悪魔どもに無残にも殺されていく。 そんな中、ただ一つの目的を持って駆け抜けていく者がいた。 男だ。男が二人。 1人は様々な苦脳を秘めた厳しい面構えの、平凡な男。 身につけた衣服は僧侶か何かを思わせる、装飾の少ないそれだ。 目前に立ちはだかるのは、つい先ほどまで市民を貪り食っていた怪物ども。 その数は1匹や2匹ではない。あまりにも多すぎる。 「ダメだ、此方の道は奴らが多い! 回り道を――」 「そんな時間があるものか! マーティン、私が切り開く!」 その男――マーティンと呼ばれた男の脇を、一陣の風が擦り抜ける。 身を低くして一瞬にして通りを走り抜けたのは、まるで影のような男だった。 黒い鎖帷子を纏い、頭をすっぽりと外套で覆った彼は、手にした武器を振り抜く。 片刃の長剣――遥かな東方から伝来したと言われる、切れ味の鋭い代物である。 皇帝直属の親衛隊のみが携帯を許されるそれを持っているという事は、この影は親衛隊なのだろうか。 そう思う者がいるならば、あえて言おう。答えは断じて否だ。 護ることよりも殺すことに長けた剣、とでも呼ぶべきか。 およそ真っ当な剣術ではない。どれほどの敵を斬れば、このようになるのだろうか。 断じて、親衛隊などという組織に所属する者の剣技ではない。 凄まじい速さで縦横無尽に振るわれた刃が、次々に怪物どもの命を刈り取った。 彼らは男の攻撃を受けるまで、その存在に気付くことすら無かったのだろう。 あまりにも呆気なくバタバタと斃れ、屍を晒した。 だが、それで終わりではない。 終わりの筈がなかった。 騒ぎを聞きつけた鎧武者達が、具足を鳴らして迫り来る。 その数は遠目に見ただけでも――あまりにも膨大だ。 男は躊躇しない。 マーティンを背に庇い、悪鬼どもを睨みつけ、叫ぶ。 「行け、マーティン! ここは私に任せて、お前はアミュレットを神殿へッ!」 「しかし……ッ!」 「馬鹿者ッ! お前が死ねば其処で終わりだが、お前が神殿につけば此方の勝ちだ! 何も奴らを殲滅するわけではない。『門』が閉じるまでの間だ。 お前の鈍足でも、どうせ五分かそこらだろう。安心しろ。その程度ならば防ぎきってみせる」 マーティンの顔に迷いが浮かんだのは明らかだった。 それなりに長い付き合いだ。この人物の心根の優しさは、よく知っている。 だが、彼は影のような男を見やり、そして押し寄せてくる悪魔どもを見やり、 その全てに背を向けた。 「…………感謝する。アルゴニアンよ。君は、良き友だった」 「ああ。そうとも、マーティン」 「……」 「お前は良い友だった」 会話はそれで終わった。マーティンは走り去り、影は残る。 そうして影は外套の内側で薄く笑うと、それを跳ね除けた。 露になったのは人の頭ではない。似ても似つかぬ蜥蜴の其れだ。 アルゴニアン――辺境に多くが暮らし、帝国人から忌み嫌われる種族。 遥か昔には奴隷として使役された事もあるアルゴニアンだったが、 それでも尚、彼は人々が好きだった。 何よりも、あのマーティンという男は気に入っていた。 躊躇わずに命を賭け、こんな場所にまで付き合うほどには、だが。 刃を構える。 なぁに、不可能な事ではない。難しいことでもない。 このくらいの窮地ならば、過去に幾度となく乗り越えてきた。 「さあ来いデイドラどもッ! 生きてれば一度は死ぬものだッ!!」 アルゴニアンの挑発に対し、悪魔――デイドラの軍勢が雄たけびを上げた。 そして幾度と無く彼らの野望を打ち砕き、今この戦いに終止符を打とうとする男を滅ぼすため、 幾百ものデイドラがこの路地へ押し寄せ、そして―― ――――世界を光が包み込んだ。 ――五年後。 新暦68年 某月某日 日本 海鳴と呼ばれる土地。 深夜。時計の短針が十二を通り過ぎ、一を示す頃合。 喫茶店『翠屋』には多くの人物が集まり、そして眠っていた。 ある者はカウンターに突っ伏すようにして、 ある者はテーブルの下で丸くなり、 ある者は大きな犬にしがみついて。 『高町なのは復帰記念パーティ』 ようやく復帰した少女――彼らの大事な存在の帰還を祝うため、 殆ど朝から晩まで騒いだ結果が、これである。 「もう、みんな酷いなぁ……。好き勝手に騒いで、勝手に寝ちゃうんだもん」 「仕方ないよ、なのは。それだけ皆、なのはが帰ってくるのを待ってたんだから……」 「うん、それは……わかってるんだけど、ね」 今起きているのは、この二人。 主賓である高町なのは。 そして彼女の一番の親友であるフェイト・テスタロッサ・ハラウオン。 悪戯っぽく笑いあいながら、幸せそうに眠りこけている仲間達を見やる。 本当に幸せだ。 自分達には家族がいて、友達がいて、仲間がいて。 こうして何かにつけて祝って、騒いでくれる。 だが、それもしばらくは見納めだ。 「なのは、その――」 「もぅ、心配性だなあフェイトちゃんは! クロノ君もだけど……。 ひょっとして、お兄ちゃんに似た、とか?」 「なのはぁっ!」 にゃはは、と笑って誤魔化すなのはを、フェイトは怒りながらも心配そうに見つめた。 彼女がとてつもない大怪我をしたのは、一年前になる。 だが、一年もかけねば治らないほどの負傷だったのだ。 そして――まだリハビリを終えたばかりなのだから。 「私のことなら気にしなくて良いよ、フェイトちゃん。 もうすっかり元気だし、前みたいな無茶はもうしない。 それに――フェイトちゃんの執行官試験の方が大事なんだから!」 そう、執行官試験。 今まで二度受けて、フェイトは二回とも不合格になっている。 本人は頑なに否定するだろうが、なのはの事故が影響しているのは間違いない。 だが――……だからと言って、果たしてこのような事になっても良いのだろうか。 ―――――話は数日前、高町なのはが退院する、その直前にまで巻戻る。 退院準備の為、荷物を鞄に纏めていた彼女とフェイトの前に、クロノ・ハラウオンが現れたのだ。 勿論、彼にとって最も大切な目的は、友人であるなのはの退院を祝う事だったが、 それ以外にもう一つ、極めて重要な用件を抱えていた。 「「タムリエル?」」 「そう、第23管理外世界。現地の言葉で『タムリエル』と呼ばれている。 文明ランクは――地球やミッドチルダよりもだいぶ低い。中世クラスだろう。 ただ魔法に関しては正直想像がつかない。これまで、さして注目もされてなかったからね」 「これまで、って事は……今は注目されているの?」 ああ、とクロノは頷いた。 タムリエルは地球など他管理外世界と同様、次元宇宙に接触する技術を保持していない。 そう思われていたのだ。――これまでは。 「事件が起きたのは新暦63年。なのはやフェイトと逢う二年前だ。 タムリエルで大規模な次元震が確認された。 その規模は――恐らく、史上最大。 まず間違いなく『二つの世界が完全に繋がった』ような状態だった筈だ」 それほどの大事件でありながら、事件の詳細は確認されていない。 いや、できなかったのだ、とクロノは語った。 「次元震動が確認されてから一時間と経たず、それは消滅してしまったんだ。 単なる偶然なのか、或いは人為的なものなのか、まるで判らないまま。 そして、その後の調査も不可能だった。 結界……とでも言うのかな。外部からの干渉を遮断するバリアが張られていたのさ。 まあそんな事が可能な魔法技術があったなんて思いもよらなかったから、 管理局のこれまでの調査が如何に杜撰だったか、って問題にもなったけど、 とにかく、その世界への干渉は不可能だったんだ。ところが――三日前に、そのバリアが消滅した」 「それって……つまり、また同じ事が起こるかもしれないの、クロノ君?」 「ああ、そうだ。これは極めて重大な調査になる」 「でも、何で私と、なのはにその話を?」 「……つまり、なのは。君のSランク取得試験内容は『管理外世界タムリエルの調査』。 そして、フェイト。君の執行官資格試験もまた『管理外世界タムリエルの調査』なんだ」 ――魔法少女リリカルなのは The Elder Scrolls 始まります。 目次へ 次へ
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魔法少女リリカルなのはGoodSpeed クロス元:スクライド 最終更新:08/02/28 Chapter1<<Erio>> TOPページへ このページの先頭へ
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『マルディアス』。神々の戦いで一度死に、そして千年の時をかけて蘇った世界。 今この世界では、千年前の戦いに敗れ、封印されていた邪神『サルーイン』が復活しようとしていた。 魔物やサルーインの信徒が起こしていた幾多の事件。それらはやがてサルーイン復活へと繋がる。 世界は再び、千年前のような混沌の時代へと移り変わろうとしていた。 しかし、サルーインと戦う者達は確かに存在していた。 神々が創り上げ、英雄『ミルザ』へと与えられた十の宝石。それらはとある五人の運命を絡め取り、サルーインとの戦いへと駆り立てた。 灰色の長髪をした剣士『グレイ』。 迷いの森を守る弓使いの少女『クローディア』。 エスタミルを根城とする盗賊の少年『ジャミル』。 三角帽を被った術士の女性『ミリアム』。 トカゲの姿をした亜人『ゲッコ族』の戦士『ゲラ=ハ』。 彼らは現在、かつてミルザが神々に認められるために行った試練……通称『最終試練』に参加している。 その内容は、試練の地で十二体の強大なモンスターを打ち倒し、祭壇まで辿り着く事。 そして今、彼らは十二体目のモンスターである金色の龍『ゴールドドラゴン』との死闘を繰り広げていた…… 魔法少女リリカルなのは ―Minstrel Song― Event No.00『最終試練』 【十字斬り】 グレイが刀を振るい、金の巨躯へと十字の傷を付ける。 刃渡りは長く、切れ味も十分。それなのに大したダメージを与えられていないらしく、龍が傷をものともせずに接近。 そのままグレイへと牙を剥き、喰らいつく。 【かみ砕く】 その牙の鋭さは、かつて戦った同種の ―但しこちらの方が遥かに強いが― モンスターで身をもって味わっている。 それ故にこれは喰らってはいけないとすぐに理解し、チッと舌打ち。そのまま刀で受け止めた。 龍と人間の力には元々大きな差があり、それはこれまでの戦いで鍛えられたグレイでも例外ではない。せいぜい三秒もてば良い方だろう。 「クローディア、援護頼むぜ!」 だが、このメンバーにはそれで十分だ。 ジャミルが愛剣『エスパーダ・ロペラ』を手に、高く跳び上がる。その後方には『藤娘』に矢をつがえるクローディアの姿が。 そのままジャミルは近くの岩を蹴り、ゴールドドラゴンへと飛びかかる。それと同時に矢が放たれた。 【ホークブレード】 【プラズマショット】 【連携:ホークショット】 ジャミルの剣がゴールドドラゴンの背を掻き斬り、そこにクローディアの矢が直撃。 いかにゴールドドラゴンといえど、傷口にプラズマショットという電流付きの矢を撃ち込まれればたまったものではない。 そのダメージから思わず牙を離し、その間にグレイが離脱する。そしてその隙にゲラ=ハが自身の持つ槍『マリストリク』をドリルのように回転させながら接近した。 【螺旋突き】 突っ込んでいったゲラ=ハが傷口へと槍をねじ込んだ。それも先にグレイが付けた十字傷へのピンポイント攻撃。 さすがに傷口への攻撃は効くらしく、結構なダメージはあるらしい。 だがその代償として、ゴールドドラゴンを本気で怒らせてしまった。これはかなりまずい状態だ。 大きく咆哮し、首を空へと向けるゴールドドラゴン。その口からは炎が漏れ出している。おそらくブレス攻撃が来るだろう。 それを阻止すべく駆けるゲラ=ハ。だが、一足遅い。 【火炎のブレス】 辺り一面を焼き払うほどの炎が吐き出された。 その炎はグレイ達へと直撃し、死にはしないまでも多大なダメージを与える。無事だったのはあらかじめ炎の盾の術『セルフバーニング』を使っていたミリアムくらいだろう。 中でもゲラ=ハは前に出ていた分、より大きなダメージを受けていた。先に復活の術『リヴァイヴァ』を使っていなければそのまま倒れていただろう。 「……さすがに最終試練の最後の一体。強いですね」 そう言いながらマリストリクを構えるゲラ=ハ。それに対し、グレイが言葉を返した。 「ああ……だが、時間は稼げた。ミリアム、やれるな?」 【スペルエンハンス】 グレイが振り向いた方向では、先程からミリアムがスペルエンハンスで魔力を高めている。 今使った分のスペルエンハンスがかかると同時にミリアムが気付き、そして答えた。 「大丈夫、これならやれるよ!」 そう言うと同時に、ミリアムに大量の魔力が集まり、それが龍の真下で形を成す。 それは巨大な炎の玉。それがゴールドドラゴンの真下からせり上がり、そして飲み込む。 【クリムゾンフレア】 その炎……いや、クリムゾンフレアが龍を飲み込み、少し地上から離れたところで停止。その上には巨大な陣が形成され、少し遅れて炎が爆発する。 だが、クリムゾンフレアはそれだけでは終わらない。爆発の後に上空の陣が巨大な火柱を落とすという大仕掛けが残っているのだから。 爆発と同時に五本もの火柱が巻き起こり、ゴールドドラゴンを灰燼へと変える……それで本来は終わりのはずだった。 だが、まだ終わらない。ゴールドドラゴンとはここまでやられてもまだ戦えるほどのタフネスを持っている。 「嘘、あれで倒れないの!?」 さすがのミリアムも驚きを隠せない。まあ、無理もないだろう。 何せ自分が持つ限りで最高クラスの威力の術を喰らって立っていられる相手だとは思わなかったのだろうから。 だが、それでも相当弱っているのが見て取れる。倒すなら今だ。 それを理解したのか、クローディアがすぐさま藤娘を構え、グレイとジャミルに指示を飛ばした。 「グレイ、ジャミル、私に合わせて」 そう言うと、すぐさま矢の速射を撃ち込む。それに合わせてグレイとジャミルが追撃。 上空から見れば、この三人がまっすぐ一列に並んでいるのが分かるだろう。 ……そう、ちょうど竜騎士から教わったあの陣形のように。 【龍陣】 その並びに反応したかのように、ゴールドドラゴンを中心とした光の円が地面に形成される。 これこそが『龍陣』。それぞれの連携の末に龍が追撃するという陣形だ。 そこからすぐにグレイが動き出し、次々と連携を決めていく。 【龍尾返し】 【三星衝】 【サイドワインダー】 【連携:龍尾三星ワインダー・龍牙】 まずグレイが懐に飛び込み、ナナメに一閃。そこから横にまた一閃。 そこからジャミルがゴールドドラゴンの急所といえる位置……すなわち、グレイとジャミルによって付けられた二つの傷口と、龍尾返しで新たにできた傷口にほとんど同時に突きを見舞う。 さらにその箇所を性格に狙い、クローディアが蛇のように曲がりくねった軌道の矢を放つ。それは見事に命中した。 そしてここからが龍陣の真骨頂。一頭の巨龍が下から現れ、ゴールドドラゴンを巻き込んで徹底的に大暴れしていった。 さすがにここまでやられて戦えるほど、ゴールドドラゴンはタフではない。 その場でグラリと崩れ落ち、そして倒れた。 決着から数分、彼らは最奥である試練の祭壇へと辿り着いていた。 階段を上り、祭壇を視認。それと同時に、彼らにここのことを物語として教えた吟遊詩人も視認。 ただし、吟遊詩人はいつもとは違い、どこか人間離れした雰囲気を漂わせている。 ……ここまで来れば、この吟遊詩人がただの人ではないことが容易に想像できるだろう。 「お前はいったい何者だ?」 ならばこの男は一体何者なのだろうか。それを疑問に思ったグレイが問う。 それに対し、詩人は答えずにただ笑顔で自分の思っていたことを口にした。 「グレイ、そしてその仲間たち。君達がここまで来ると信じていたよ」 その口調もいつもの敬語ではなく、まるで父親が子供に語りかけるような言葉。 それがグレイの頭にとある可能性を叩き出させる。普通なら誰も信じないような、そんなとんでもない可能性を。 「……まさか」 「そう、私は光の神。神々の父『エロール』だ」 ……どうやらたった今叩き出された可能性は大正解だったらしい。 何故吟遊詩人……いや、エロールが人間として生きているのかはこの際置いておくとしよう。考えても仕方が無いのだから。 それより他に気になることがあるらしく、クローディアが階段を下りるエロールへと聞いた。 「貴方はサルーインより強いのでしょう? ならば何故、自分で戦わないの?」 かつての神々の戦いの時、サルーインとその兄弟……伝説上は『三柱神』と呼ばれているのだが、それらがエロールと戦い、そして敗れた。 三柱神のうち、長兄『デス』と末妹『シェラハ』はその時に降服。しかしサルーインだけは最後まで戦い続けた。 エロールがミルザに宝石を与えたのはその後、すなわちサルーインただ一人を残した時であった。 そこからでも分かるように、三柱神のうち二人を降服させるほどの力を持つのがエロールだ。 ならばエロールが戦えば勝てる。なのにそれをしない。それを疑問に思った結果が今のクローディアの問いである。 エロールはその歩みを止めず、階段を下りながらクローディアへと答えを返した。 「……かつて神同士の戦いがあった。そのとき世界は一度死んだ。それほどに神の戦いは激しいのだ。 私は二度と世界を死なせたくない」 千年前の神々の戦い。それは世界を一度殺すのには十分過ぎる程の規模だという。 エロールはそれを分かっている。だからこそ、自身がサルーインとの戦いに赴かないというのだ。 「なるほどな。でも、俺達じゃサルーインには勝てないかもしれないぜ?」 ジャミルが軽口を叩きながら階段を下りる。それに合わせて他の四人も一緒に下りていく。 「人には自分の運命を自分で決める権利がある。 サルーインの復活を傍観するか、サルーインを打ち倒すか、それともサルーインに敗れ去るか。全て自分達で選ぶことができる」 既に階段の一番下の段に辿り着いていたエロールが言葉を返す。 少なくともこの五人は、サルーインと戦う道を選んでいる。だからこそこの言葉を贈ったのだろうか。 やがてグレイ達五人も階段の一番下へと到達。そしてミリアムはその場で立ち止まった。 「本当は、もう結果が分かってるんじゃないの? やれるかどうかも分からないのに、あたい達に任せるとは思えないもん」 ミリアムが笑ってそう聞く。確かに、勝てるかどうかも分からない……というより、負ける公算の高い戦いをさせるとは思えない。何しろ、負ければ世界が危ないのだから。 だが、その問いはエロールが横に首を振ったことで否定された。 「神々とて、それほど先のことがわかっているわけではないよ」 そう、たとえ神々でも未来というものは分からないのだ。 封印したことによってサルーインの憎しみが増すとは予想していなかった。 サルーインが『ミニオン』という使い魔達を生み出すとは思っていなかった。 かつての戦いで生み出し、ミルザへと与えた宝石『ディステニィストーン』が世界を混乱させるとは思わなかった。 「……全て、私の失敗だよ」 心底悔やんだような顔(帽子と髪型でよく見えないが)でエロールが言う。 未来が分かっていれば、このような失敗もしなかった。そしてその失敗の結果がサルーインの復活だ。 「勝敗はやってみなければ分からない、そういう事ですか……荷が重いですね」 「だが、やるしかない。エロール、俺達が負けても文句は言わせんぞ」 ゲラ=ハの言葉にグレイが言った。それを聞いたエロールが笑顔で答えを返す。 「私はこの世界そのものと、世界に存在する全てのものをいとおしく思っている。 どのような結果も、受け入れるだけだ」 「さて、サルーインの居場所ですが……実を言うと、今はこの世界にはいません」 吟遊詩人の口調に戻ったエロールが、サルーインの居場所を言う。が、それはあまりにも理解しがたいことだった。 もっとも、いきなり『実はこの世界にはいません』というのは驚かないほうが不思議だろうが。 「何だと? それは一体どういう意味だ」 いきなり突拍子の無いことを言い出すエロールにグレイが問い返す。 見れば他の面々も全く理解できていないような表情。中にはジャミルのように「それはひょっとしてギャグで言ってるのか」とでも言い出しかねない表情の者までいる。 だが、エロールは全く動じずにその続きを言う。 「グレイ達が動いているのを感づいたのでしょう。どうやら数日前に異世界へと飛び去ったようです。 おそらくは妨害されないよう、異世界で復活を遂げてからこちらへと戻ってくる……そういうつもりでしょう。 もっとも、転移に使ったエネルギーを取り戻すだけの時間だけ復活は遅れるでしょうが」 サルーインにそのような芸当ができたとは初耳である。千年前の戦いの記録にも、そのような事は載っていない。 だが、事実サルーインは異世界へと飛んでいる。ならば追って復活を阻止、最悪の場合復活したサルーインを打ち倒す必要があるのだ。 「消耗したエネルギーの分だけ復活が遅れると言いましたね……具体的にはどれ程遅れるのですか?」 「……長く見積もっても、あちらの時間で数ヶ月といったところでしょう」 サルーイン復活まであと数ヶ月の遅れが出る。異世界に向かい、探して打ち倒すには十分な時間だろう。 その頃には彼らの中に異世界行きを迷う者など誰一人としていなかった。 ……まあ、どうやって行くのかを一切考えていなかったが。 「私が一度あなた方を地上へと送ります。準備が済んだら北エスタミルのパブまで来て下さい。 そこから私の力でその世界へとお送りしますし、決着がついた頃にそちらへと迎えに行きます」 数日後、北エスタミルで謎の光が確認された。 その光の正体は無論、エロールがグレイ達を異世界『ミッドチルダ』へと送るための力である。 「頼みましたよ、皆さん……」 彼らがいなくなった北エスタミルで、エロールは一人呟いた。 そしてグレイ一行とサルーイン、そして『機動六課』と『ジェイル・スカリエッティ』を巻き込んだ物語は……ここから始まる。 目次へ 次へ
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南イタリア ネアポリス空港 両替所にて、クロノはある程度まとまった金を両替した。 「すまない、市内までタクシー代はどれくらいかかるだろうか?」 「4000~5000ってとこかね」 「そうか、ありがとう」 金を財布に入れ、もう一人の同行人の元に戻ると、札束の半分辺りを手渡す。 「おおよそ、10、20万あるはずだ、ある程度雑貨品も買い込む必要があるし足りなくなれば言ってくれ」 「お金の管理はちょっと苦手かも…ユーノ君お願い出来るかな?」 「いいけど、持つときは複数の場所に分けてね、スられた場合の保険に」 肩にフェレット、ユーノを乗せた高町なのは。いつもの制服ではなく私服なので、多少は周りに溶け込めていた。 「こういう服はあまり着た事無いから…ちょっと慣れないな」 「似合ってるよクロノ君、普通の人みたい」 「いや、普通の人だが」 対してクロノはいつもの執務官服ではなく、黒の上下に藍色のジャケットを羽織っていた。 二人とも少々大きめのスーツケースを引いている。ぱっと見は単なる旅行者以外の何物でもない。 「普段は普通に見られていなかったのか…」 「さて、タクシーで拠点に向かおうか、なのは」 がっつりと落ち込むクロノはあえて無視する。 「そ…そうだね…」 「ねえ、タクシー探してる?」 二人(と一匹)に声をかける者がいた。 「アルバイトでこれから帰る所だから安くしておきますよ…8000でどう?」 服は胸元がハートの様な形に開いた、暗い配色の…制服…だろうか? 輝く様な金髪の前髪を3つ丸めて束ねている、年の瀬はクロノより少し年上なのだろうか。 「厚意はありがたいが、ちゃんとタクシー乗り場で乗る事にするよ…流石にそこまで暴利ではね」 「く…クロノ君…」 なのはは物言いを多少咎めるのと同時にタクシー乗り場に目をやった。 乗り場にはかなりの長蛇の列、タクシーが来る時間の割合を考えると1、2時間で済むだろうか…? 「…あっちの客には声をかけないのか?」 「君達が断るなら…これから…、じゃあ、2000円ならどうかな?」 「…いきなり安くなったな」 「チップは無しなんだから、荷物は自分で助手席に積んでくれ、そっちのレディは別だけどね…」 「…わかった、それでいい…なのはは後部に荷物と一緒だ、僕は荷物を前に載せて後ろに」 「うん」 かなり大きめの荷物を前に乗せるクロノ。 「ちゃんと指定の場所まで送ってくれよ?僕らはただの観光客じゃないんだからな…」 「正直に送り届けますよ」 そして、なのはとクロノが後ろに乗り込もうとした時 「ただし、空のバッグだけを、ですがね」 車が急発進した。 「…ふぇぇ!?ま、まだ乗ってないよ!」 「早速か…やれやれ…誰も手をつけたがらないのも納得だ…」 「止めるよ!」 少年はバックミラーで二人の表情を確認した。呆気にとられて慌てる少女と頭に手をあてやれやれと首を振る少年。 だが、追ってくる様子すらない、奇妙に思ったが振り切ってしまえば此方の物だ。 「チャオ」 だが空港を抜けようとしたその時、車がガクン!!と前につんのめり、止まった。 タコメーターはエンジンの不調を訴えてはいない、ガソリンも十分。だがタイヤは地面を空回りするばかりで前に進まない。 「ユーノ君……凄い…」 「一瞬でこれだけのバインドを編んだのか…」 一般人には見えないが、二人には見えていた。周囲にあるガードレールや電柱に縦横無尽に絡まり車を二重三重に捕縛したチェーン・バインドが。 「僕だって一応修行してるんだよ、ま、奴への引導は二人にお願いするけど」 クロノは焦る事無くゆっくりと車に近づく。運転している少年はまだ車を弄っていた。 「言っただろう?ただの観光客じゃないって…」 声をかけ、助手席の扉に手をかけると、流石に感づいた様で少年は運転席から飛び出した。 「荷物だけ置いていけばいい、追う必要もない…」 当然、クロノはこの少年が計画が失敗した事でパニックと罪悪と敗北の表情をするだろうと思った。 しかし…彼はそのどの表情もしなかった…少年は微笑んでいるのだ…… ただ平然ともの静かに微笑んでクロノを見ていた……… その表情には『光り輝くさわやかさ』さえある様にクロノには感じられた………。 少年はそのまま、さっと踵を返し何処へと消えた。 「クロノ君、大丈夫?」 「ああ…だがちょっと奇妙な奴だった…しかし、」 「二人とも…後ろの二人がちょっと面白い事を話してる…」 クロノの話を遮ってユーノが割り込んできた。二人はそのまま聞き耳を立てるが旨く聞こえない。 「念話で聞こえる様にするよ…」 「案外万能なんだな…」 「ユーノ君の一族遺跡発掘のプロだからね、言語、念話関連は凄く得意みたいだよ」 話の内容を漏らさぬ様に、急いだユーノのお陰ですぐに声が聞こえてきた。 「…ョルノの奴エンストして失敗したみたいだぞ」 「あいつ、半分日本人のくせして日本の旅行者をだまそうとするからバチが当たったんだ」 「もっとも、あの髪の色じゃあジョルノ・ジョバーナを日本人とわかる奴はいないがな…」 「いや…染めたんじゃないらしいぜ、黒い髪だったのがここ最近、急に金色になったらしいんだ、妙な体質だな…」 「本人はエジプトで死んだ父親の遺伝と言っている…」 「ジョバーナ…?」 クロノは胸元から写真を取りだした、黒髪の少年で、此方の組織と取引している条件…体組織の採取するべき少年だ。 「ジョルノ・ジョバーナ…汐華初流乃………初ルノ…シォハナ…」 「それ…さっきの人なのかな?」 なのはに言われて、先程の男の顔と当てはめてみる、確かに似てはいるが、まだクロノには今ひとつ確信が持てない。 「わからん…組織とコンタクトをとってより情報が手に入れば良いんだが…」 「クロノ、ところで君の荷物は…?」 言われて助手席に目をやるが、先程確かに自分で助手席に積んだ筈のスーツケースだが、それが今は影も形も無い。 「無い…だがさっきの奴は何も持っては……?」 よく見ると、助手席のところに何かへばりついている。粘性のボールの様な『それ』は更に内部に何かが入っている。 「これは…僕の荷物…なのか!?」 先程のクロノのスーツケースについていた名札『黒野』と言う文字が中に見える。 しかしそれは何度か鼓動を脈打ちながら別の物に変化…いや成長してゆく。 『それ』は呆気にとられているクロノの目の前で生物に変わってしまった。 『カエル』に 「魔法なのか…聞いた事もないぞこんな魔法はッ!!」 カエルはぴょいっとクロノの手にのっかる、ペトリとした粘性の手足の感触、重量、それは蛙に他ならない。 「生き物だ…変化魔法の類や幻術でもない…本物のカエルだ…」 「で、でも…最初はスーツケースみたいだったし、生き物だとしたらクロノ君の荷物は…?」 狼狽える二人を尻目に、カエルはクロノの手を飛び降り、そのまま排水溝から下水へと消えた…。 「…なのは、すまないが別行動だ僕はあいつを捜してみる、拠点の住所は覚えているだろう?そこに向かっていてくれ…なのはを頼むぞユーノ」 「はいはい」 「あまり無理しないでね…」 クロノはそのまま、市街へ向かって駆けだしていった。 「で、どうしようか、なのは」 「地図で見ると…少し歩くけどケーブルカーがあるみたい…そっちの方が良いかな」 二人は流石にこれからタクシーに乗る気は起きなかった。 ジョルノ・ジョバーナを探しに市街方面に向かったクロノだったが、その本人はまだ空港敷地内にいた。 滑走路の外れ、離陸する飛行機を眺めているジョルノ、待ち合わせしている様にもみえる。 相手はすぐに現れたようだ。先程のカエルが側の排水溝から、ジョルノの手の上に飛び乗った。 「よし…」 そのカエルは見る間に膨れあがり、先程のクロノのスーツケースへと戻った。 その場で中身を改めるジョルノ、だが容量の割に中身は少なく金になる物はせいぜい衣類か宿泊セット、目的のパスポートや財布は鞄の中ではなかったようだ。 「……やれやれ…無駄骨か…これだから無駄な事は嫌いなんだ、無駄無駄…」 前へ 目次へ 次へ
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――平凡な小学生だった私、高町なのはに訪れた突然の事態。 渡されたのは赤い宝石。手にしたのは魔法の力。 出会いが導く偶然が今、光を放って動き出していく。 繋がる想いと、始まる物語。 それは魔法と日常が並行する日々のスタート。 だけどそれは、決して私だけに訪れた事態じゃなかった。 彼に渡されたのは護符。手にしたのは自由な世界。 日常と冒険が並行する日々の始まり。 でも彼が手にした出会いは、本当に儚いもので。 その事を私達が知るのは、もっとずっと後のことで。 ――今はただ、この偶然が導いた出会いに、感謝するばかり。 魔法少女リリカルなのはThe Elder Scrolls はじまります。 「……ふむ。とすると君達は、そのミッドチルダとかいう場所からシロディールまで旅をしてきたのか」 「ええと、まあ……そんな所、なのかな?」 「聞いたことがない地名だが……モローウィンドよりも遠い所って言うんじゃ、仕方ないか。 それにしては旅慣れていないように見えるが……。 山賊やらカジートやらもいないような所なのかい、そのミッドチルダは?」 「にゃははは……うん。そんな所です」 それはまた随分と辺境なんだなと呟くアルゴニアンに、なのは達は苦笑いを浮かべた。 実に奇妙な一行だった、と思う。 女の子二人にアルゴニアンが一人。 タムリエル広しと言えども、好んでアルゴニアンと接したがる人はそういない。 かつては奴隷であり、未だに多くが泥沼の近くで原始的な生活を営んでいる、被差別種族なのだから。 勿論おおっぴらに差別される事は無いが、見目の悪さと相俟って潔癖症な帝国民からは嫌われている。 先ほど彼女達が出会ったカジートの山賊も知っていたように、レヤウィンの伯爵夫人に関する噂もある。 曰くレヤウィン城の地下には秘密の拷問部屋があるだとか、 曰く目をつけられたアルゴニアンやカジート達は生きて帰れないだとか、 曰く血の淑女なる人物が全ての拷問を取り仕切っているだとか、 まあ、多くの人は噂話だとして片付けているのだけれど。 そう言った噂が流布すること事態、如何に異種族を嫌う人間が多いかということの証明と言える。 なのはとフェイトが出会ったアルゴニアンは、奇妙なことに自らを行商人と名乗った。 何でもブラヴィルで仕入先の人と、取引をした帰りだったそうだが――……。 アルゴニアンの行商人なぞ、滅多にいるものではない。――人に嫌われている種族だからだ。 とはいえ、二人はその事を『奇妙』と思わずに受け入れた。世界の常識にはとことん疎い。 それに何よりこのアルゴニアン。不思議なことに人を惹き付ける何かがあった。 こうして共に並んで旅をしていると、それが良くわかる。 仕立ての良い緑色の衣服。動きやすそうな革のブーツ。 首から下げた宝石や、両手の人差し指に一つずつ嵌めた指輪も、 あまり自己主張をせず、綺麗に纏まっている。 背中に弓矢を背負い、腰に剣を吊るしているとはいえ―― 先ほどのように盗賊に襲われることを鑑みれば、当然と言えた。 「シェイディンハルまで品を運ばなきゃならないんだがね。 久々にレヤウィンから大回りしようかとも思ったが、まあ帝都に向かって良かったよ。 まったく、街道から離れたところを旅するなんて――女の子のやる事じゃあないぞ」 つまり二人にはブラヴィルもシェイディンハルもレヤウィンも、どんな都市なのか見当もつかない。 それにしても、話を聞くだに物騒な世界である。 山賊が蔓延り、怪物が闊歩し、世間に危険が満ち溢れていて。 ミッドチルダや地球といった、治安の良い世界に暮らしていた二人には、ちょっと想像できない。 「にゃはは……。道を五分も歩けば山賊に出会うって、ちょっと大げさな気もするけれどねー」 「大袈裟なもんか。私が旅に出たばかりの頃は、それはもう酷かったんだぞ。 まあ、さすがに帝都の近くまでくれば治安も良いが――衛兵が巡回しているからだな、結局は」 「……………あの、アルゴニアンさん?」 「うん? どうかしたか、フェイト」 「地図とかって、持って無いですか? シロディールの」 「そりゃあ私は持ってるが――そうか。二人は持ってないのか」 はい、と頷くフェイトに対し、ふむと考え込むアルゴニアン。 「別に見せるのも、渡すのも構わんが――どちらにしろ、もう少し後にした方が良いだろうな」 そう言って彼は、ちらりと視線を空に上げる。 つられて二人も見上げると、もう夕焼けも過ぎ去り、夜が迫ってきているのがわかった。 また、その空の美しさに息を呑む。 夕焼けが端の方から暗くなっていき、煌く星の瞬きが徐々に鮮明になっていく。 その数は、とてもではないがミッドチルダや海鳴の比ではない。 文字通り『満天の星空』と言ったところか。 そして何よりも目を引くのは――大きな二つの月。 彼女達が知っている月というのは勿論一つで、白や黄色なのが普通だったが、 このタムリエルで見える月は二つ。それも様々な色が混じり合った、奇妙な美しさを持っているのだ。 「う、わぁ……」 「凄い――綺麗」 「……もう遅い。この先に私の行き付けの宿がある。 どうせ今から帝都に向かうには夜通し歩くか、途中で野宿だろう。 其処に泊まろうと思うのだが、どうだ?」 二人から拒絶の言葉がでる筈もなかった。 ―――宿屋『不吉の前兆』。 あまりにも、あまりな名前である。 ましてや、かつてその宿で凄惨な殺人事件が起きたとなれば、だ。 何でも泊まっていた老人が、何者かによって刺殺されたのだとか。 その鮮やかな手並み、そして老人が何かに怯えたような素振りを見せていた事から、 此度の殺人事件は、ある集団の手によるものだと実しやかに囁かれている。 曰く――暗殺組織『闇の一党』の仕業だ、と。 だが、そんな事情があるとなれば、宿屋の辿る運命は二つに一つ。 つまり寂れるか、栄えるか、という至極当然の二択であり、 幸いにも『不吉の前兆』が辿ったのは後者であった。 近くにある宿屋『ファレギル』が街道から少し逸れた場所にある事も手伝って、 この小さな、個人経営の宿屋はそれなりに繁盛をしているらしい。 ランプの明るい橙色の光に照らされた室内は、活気に溢れていた。 食堂には数人の客が思い思いに食事を楽しみ、酒を飲み、 店主はその光景を楽しそうに眺めている――と言った具合だ。 新たな客の存在に意識を奪われた店主は、其の人物が常連客であることを認めると、 その顔に満面の笑みを浮かべ、両手を広げて迎え入れた。 「やあアルゴニアン、よく来てくれたね!」 「ああ、相変わらず盛況なようで何よりだ。――二部屋頼めるかい?」 「二部屋? そりゃ構わんが――ああ、後ろのお嬢ちゃんがたは、あんたの連れか」 「そういう事だ」 「…………娘か?」 「馬鹿を言え、アルゴニアンにインペリアルの娘がいるものか」 そんな和やかな会話の末、あっという間に宿泊の手続きが進むのを見て、 なのはとフェイトはある事実を思い出し、慌てて口を挟もうとした。 理由は明白だ。 『この国のお金が無い』 それを言うと、アルゴニアンは笑った。 「子供がそんな事を気にするものじゃあない」 という訳で、あっという間に二人は寝室に放り込まれていた。 『子供は寝る時間だ』という事らしい。 12歳ともなれば、九時や十時に眠るという事に多少なりとも抵抗は感じるのだが、 ――とはいえ、其処は女の子が二人。パジャマに着替えた後は自然にお喋りの時間となる。 寝台――小さなものが一つ。とはいえ少女二人ならば十分な大きさだ――の上に座り、 先ほどアルゴニアンから手渡されたシロディールの地図を広げ、興味津々といった様子で覗き込む。 「ええっと……帝都は、この真ん中の湖に浮かぶ島、だよね」 「たぶん。それで街道を南東に下って――川沿いのブラヴィル。海まで行くと、レヤウィン」 「其処から川の対岸に出て、ずーっと北上すると――帝都の東側に、シェイディンハル、かー。 アルゴニアンさんって、こんな長い距離を歩くつもりだったんだね」 大雑把な地形の上に街道と、各地の大都市の位置だけが記された地図を見ながら、 移動中に彼の語った土地の場所を確認していく。 『空を飛ぶ』という概念の無いらしいこの世界において、この距離を歩くのは中々に堪えそうだ。 とはいえ行商人ともなれば、やっぱり方々を歩き回るのだろうし、然程の苦労でもないのだろうか? 「……そうだ。ねえ、なのは。気づいてた?」 「うん? 何のこと?」 「あの人、行商人って言ってたけど――『売るほどの荷物』を持ってなかった」 「…………」 言われてみれば、だ。 仕入先の人と取引をした、という事はそれなりの『商品』を持っていなければならない。 だが――彼はそんなに大量の荷物を持っていただろうか? 否だ。勿論、旅人の常として背負い袋は持っていた。 だが……その中に売り物が入っているとは、到底思えない。 「……それに、助けてもらった時もだけど。 ただの行商人が、あんな風に気配を消せるのかな……」 「……でも、この世界は物騒だって言ってたよ。 それにアルゴニアンさんが何を売ってるのかにもよるんじゃないかな? ひょっとしたら、凄く軽い物なのかもしれないの」 「それは……そうだけど」 押し黙る二人。 やがて出た結論は『まだこの世界の事をよく知らないから』だった。 違和感は感じる。奇妙だと思う。 だがそれは、この世界では普通なのかもしれない。 ――それに悪い人じゃなさそうだし。 「……そう、だね。少し考え過ぎてたかもしれない」 「そうそう、一日歩いて疲れちゃったんだよ、きっと。 ――今日はもう、寝ちゃおうか」 「うん……おやすみ、なのは」 「おやすみなさい、フェイトちゃん」 フッと蝋燭の火が吹き消され、 二人にとって『初めての日』は、ゆっくりと過ぎて行った……。 戻る 目次へ 次へ
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魔法少女リリカルなのは外伝・ラクロアの勇者 第二話 ・???? それは、『彼』がまだ『一つ』だった頃 辺り一面は草しか生えていない草原。空はどんよりと曇り、時より雷が鳴り響き今にも大雨が降りそうな天気。 吹き荒れる強風が草を叩きつける音が鳴り響く。 「はぁ・・・・はぁ・・・・」 その草原を、一人のMSが走っていた。 名を『頑駄無真悪参』頑駄無軍団に『在籍していた』武者である。 彼は逃げていた。つい数分前までは味方だった者達から。だが、彼の表情には焦りは怯えといった感情は全く無かった。 「はは・・・・・ははははははは・・・やったぞ!!やったぞ!!!」 彼は笑っていた。その顔は事を成し遂げたように喚起に満ち溢れていると同時に、 邪な欲望を達成させたような邪悪さを醸し出していた。 今から数分前、彼は盗みを犯した。 頑駄無軍団の秘宝と言われる、『白銀の盾』と『銀狼剣』それを彼は盗んだ。 揚々と立ち去ろうとする彼を仲間は当然止めに入った。だが、 「・・・・・うるさいな・・・・・」 彼は小さく呟きながら、ゆっくりと愛用の刀を抜き、 止めに入った仲間を切り殺た。説得しようとした仲間を切り殺た。 迎え撃って出た仲間を切り殺した。許しを請う仲間を切り殺した。 「裏切り者」とわめく仲間を切り殺した。動けない仲間を切り殺した。 彼は決して敵に寝返ったわけではない。彼は秘宝が欲しかった。ただそれだけ。 秘宝が手に入れば他の事など興味は無かった。だが、奴らは邪魔をした。戯言をほざいて俺の機嫌を損ねた。 だから止めようとした奴を殺した。当然だ! 戯言をほざく奴を殺した。当然だ!! 自分を殺そうとした奴を殺した。当然だ!!! 「そうだ・・・そうだよ・・・・・・これは俺にふさわしいんだよ!!!!」 走るのを止めた真悪参は、仲間を殺めて手に入れた戦利品を天に見せ付けるようにして掲げる。 その瞳は仲間を殺した事への罪悪感など全く感じさせず、念願の宝物を手に入れた子供のようにときめいていた。 「ああ・・・・何時見ても美しい・・・・・・やはりこれは俺のものだ・・・・・武者七人衆の物でもない・・・・ …将頑駄無でも大将軍でも・・・・・闇軍団の物でもない!!!俺のものだ!!!」 彼はこの秘宝は自分の物であると信じて疑わなかった。否、『自分のためにこの秘宝は存在する』と彼は確信していた。 だから彼はその通りにした。自分の物にした。ただ息をするのと同じ感じで・・・・・自然な行為で。 「ははははははははは!!!!・・・・・・ん・・・・きたか・・・・・」 先ほどの嬉しそうな顔とは正反対な邪気に満ち溢れた表情で、逃げてきた方向を睨みつけるように見据える。 今はまだ、豆粒程度にしか見えないが、おそらくは自分を追ってきた討伐隊であろう軍団が迫ってきた。 「クククク・・・この覇気・・・・・頑駄無がいるな・・・・・・面白い・・・・」 数にして2~30はいるだろう討伐隊の中に、群を抜いて覇気が強い人物を5人見つけた真悪参。 ほぼ間違いなく、武者頑駄無を先頭とした頑駄無五人集であると彼は感じ取った。 実力に関してなら、1人1人が真悪参に匹敵する実力を持っている。それ程の兵が5人いる上に、伏兵が約30 普通なら挑む事すら馬鹿らしい状況、逃げるのが最善の手なのだが、真悪参は走る所が、自信に溢れた瞳で前を見据え、立ち尽くした。 『迎え撃つ』という、最も馬鹿な選択を実行するために。 「・・・・・丁度良い。後から金魚の糞のように付きまとわれるのも鬱陶しいからな・・・・殺っとくか」 楽しそうに呟きながら、鞘から愛用の刀を抜く。その刃には仲間を切り殺した時についた返り血がベットリとついており、 普段の白銀の美しさは全く無かった。 「・・・・・・・汚いな・・・・・・もう・・・・・いらない」 武者となってから今まで苦楽を共にしてきた彼方を、汚物を見るような目で見つめた後あっさりと草むらに投げ捨てる。 「今の俺にはこれがある・・・・・・丁度言い、試し斬りと洒落込もうか。相手は頑駄無・・・・クククク・・・・こいつの晴れ舞台には丁度言い」 これから遊びに行くかのように、楽しそうに笑いながら、真悪参は『白銀の盾』からゆっくりと『銀狼剣』を抜き取る。 長らく倉庫に保管されていたにも拘らず、手入れをしたばかりの様に白銀に輝くその剣を周囲に見せ付けるように天に掲げ、改めて歓喜する。 そして銀狼剣を構えなおし、前方から近づいてくる『敵』に向かって、走りだした。 だが、彼が戦う事はなかった。 それ以前に、彼自身も何が起きたか分からなかっただろう。 後に、一部始終を見ていた武者頑駄無は将頑駄無にこう報告をした。 「天より、捌きの雷が舞い降り、真悪参を秘宝諸共、黄泉の国へといざなった」と ・月村家 :客室 「・・・・・・・う・・・ん・・・」 小さい唸り声を上げながら、ナイトガンダムはゆっくりと目を開ける。 最初に目に入ったのは真っ白な天井。彼は直に室内にいると理解し、ベッドから上半身を起こした。 「・・・・・ここは・・・・・・」 先ずは、ゆっくりと辺りを見回す。タンスや化粧台などの調度品や、よく分からない黒い四角い板などが目に付く以外、 特に変わったところが無い部屋。備え付けられている窓は少し開いており、時折吹く風がカーテンを静かに揺らす。 見た所、自分を見張る見張りもいな・・・・・いや、 「にゃ~」 猫がいた。大きさからしておそらくは子猫。ナイトガンダム同様先ほどまで眠っていたのであろうか、眠そうにあくびをする。 「ふふ、すまないな、起こしてしまって」 優しく微笑みながら、自分が寝ているベッドの上で相変らずあくびをしている子猫の頭を優しく撫でる。 最初は、突然の行為に子猫はびっくりした様に体をビクつかせていたが、直に気持ちよさそうに目を細め、身を任せていた。 「確か・・・私は・・・・・サタンガンダムとの戦いで・・・・・」 子猫の頭を撫でながらも、自分に何が起きたのかを思い出す。 あの時、自分は三種の神器の力を借り、どうにかサタンガンダムを倒した。 だが、消えゆく姿に勝利を確信してしまい、奴の魔法を受けてしまった。 そして、奴は最後にこう言っていた。 「だが・・・貴様・・・・を・・・何処も分からぬ・・・・世界へ・・・・・・飛ばす事は・・・・・可能だ・・・・」 奴が苦し紛れに吐いた負け惜しみだとは到底思えない。そうなると 自分は異世界に飛ばされた事になる。今の所危険は無さそうだが、武器を取り上げらた以上、じっとしているわけには行かない。 先ずは、自分を保護してくれたであろう人物に会う事にした。 「すまないな、少しどいてくれるかい?」 ナイトガンダムの言葉を理解したかのように、猫は『にゃ』と一鳴きした後、ナイトガンダムが寝ているベッドから飛び降り、 そのまま床に着地。数歩歩いた後、次の指示を待つかのように再び座りだした。 「・・・・・・賢い猫だ」 素直な感想を口にした後、多少ダルさが残る体を引きずる様にして、ベッドから出ようとしたその時、 「ガチャ」 扉が開く音と共に、この家の主、『月村すずか』が入ってきた。 学校帰りなのだろう、制服姿にカバンを持ったすずかは、先ず目に入った床に座っている子猫を見て微笑み 次に目に入った上半身を起こしたナイトガンダムを見て 「・・・・・あっ・・・・・・」 固まった。 すずかは一言で言えば、内気な大人しい子である。今ではアリサやなのは達との付き合いで、少しは改善されているが、 (昔のすずかだったらあの時、本を取る手助けはしても、初対面のはやてに声を掛けたりはしなかっただろう。) 内気で大人しい事には変わり名は無い。そのため、初対面での挨拶などでは常に緊張してしまうこともよくあり、 「・・・・・あっ・・・・・・えっ・・・・・」 今は正にそんな状況であった。 特に今回は、相手が人間でないため、緊張を通り越してパニックを起こしそうになるが、どうしたらいいものかと必死に考える。 「(どうしようどうしよう!!言葉は通じるのかな?ジェスチャーのほうがいいかな?ああでも、衛生放送で見たアニメだと 降伏を表す白旗が向こうでは『相手を全滅させるまで戦いぬく』って意味だったし、下手にジェスチャーして、 偶然に『お前を殺す』という意味だったら・・・ああ・・・どうしよどうしよどうし)あの」 傍目から見ても分かるくらいに慌てているすずかに、ナイトガンダムは落ち着かせようと堪らず声をかけた。 「そんなに慌てないで、落ち着いて」 「は・・・はい!!」 「深呼吸をしてごらん。ゆっくりと」 「はい。す~は~、す~は~、す~は~」 優しく語り掛けてくるナイトガンダムの声に従い、すずかは言われた通りに数回深呼吸をする。 その様子を微笑ましく見ていたナイトガンダムは、頃合を見計らって再び声を掛ける。 「落ち着いたかい?」 「はい・・・・あの・・・・ありがとうございます」 「いや、お礼を言うのは私の方だよ。君が助けてくれたんだね?」 「えっ・・・・はい。そうなります」 肯定の返事を聞いたナイトガンダムは無言で頷くと、ゆっくりとベッドから出る。 そしてすずかの目の前まで近づくと、 「何処の誰かも知らぬ私を助けていただき、誠にありがとうございます。私、ラクロアの騎士・ガンダムと申します」 跪いて頭を垂れながら感謝の言葉と、自身の名前を名乗る。 その光栄は、宛ら小さな姫に忠誠を誓う騎士のようであった。 「あっ、はい。どういたしまして。私はすずか。月村すずかと言います」 ナイトガンダムの突然の対応に、すずかは反射的に自身の名前を呟きながらペコペコと頭を下げる。 その光景は自分のミスを必死に上司に謝る新入社員のようである。 すずかのあまりの必死な反応に、ナイトガンダムは自然と笑みを溢す。だが、直に顔を引き締め、あることを尋ねる。 「すずか殿、お尋ねしたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」 「すずかでいいですよ、ガンダムさん」 「わかりました、すずか。早速なのですが、『スダ・ドアカワールド』をご存知ですか?」 顔では冷静を装ってはいるが、すずかの回答に胸の高鳴りを抑えようと必死になるナイトガンダム。 この質問の回答で全てが分かる。もし、ここが『スダ・ドアカワールド』だったら、即『はい』と答える筈。だが、 「スダ・ドアカワールド?どこかの・・・・テーマパークですか?」 その答えは、ナイトガンダムが異世界に飛ばされた事、サタンガンダムが吐いた言葉が負け惜しみでない事、 その二つが立証された瞬間だった。 ・テラス 「へぇ~、じゃあナイトガンダムがいた世界って、正に剣と魔法の世界なんだ~」 あの後、ナイトガンダムが起きた事を知らせるために、先ずは姉である忍の部屋に向かった二人。 直に『ああ~エリート兵ムカつく!!』『なんで3%で当たるのよ!?しかもクリティカル!!』 と叫びながら10年前に発売されたゲームを必死にやっている忍を見つけたため、声をかけると 「何~すすか~?お姉さんはこのゲームのあまりの不親切さに怒りを覚えて 早速中身を弄ってやろうと思っている真っ最中な・・・・・あああああ!!!!起きたんだ!!」 先ほどまで離すまいと握っていたゲームのコントローラーを投げ捨て、ものすごい速さでナイトガンダムに近づき マジマジを見つめる。 「う~ん・・・・・やっぱり可愛いわね~。ねぇねぇ、君、何処から来たの?異世界?別銀河?火星って事は無いでしょう? 目的は何?侵略?偵察?友好関係を築くための訪問?」 「えっ・・・・あっ・・・あの・・・・・」 楽しそうに質問をマシンガンのようにぶつけて来る忍に、魔王を倒したナイトガンダムも、どうしていいのか分からず慌ててしまう。 「もう、お姉ちゃん。ガンダムさんが困ってるでしょ?」 そんなナイトガンダムの慌てように、すずかは小さく笑いながらも、助けるために暴走している姉を止めようとするが、 「へぇ~、ガンダム君って言うんだ~。私は忍。月村忍。この子のお姉さんをやってま~す。で、話の続きだけど 侵略はやめといたほうがいいわよ~。ウチのメイドはプレデター以上に強いし、恭也とその家族なんてそれ以上よ。 だけど可愛いわね~♪金属かと思ったけど、やわらかいし。ほ~れほれ、もっと伸びろ~」 「あ・・・あの・・・やめてくらはい」 忍の暴走は止まる事は無かった。 その後、すずかの頑張り(といっても、手がつけられなかったので実際暴走を止めたのはすずかが呼んだノエル)により、 忍の暴走も沈静化。 「とりあえず、お茶でも飲みながら、お話ししてはどうでしょう?」 このノエルのアイデアにより、すずか達とガンダムは、庭のテラスでお茶を飲みながら、ナイトガンダムの世界についての話を聞いていた。 「はい、治療や攻撃などで魔法は一般的に使われていました・・・・・ああ、ありがとうございます。ノエルさん」 お茶を持って来たノエルに、笑顔でお礼を言いながらも、話の続きをする。 ・自分達の世界では人間族とMS族が共に暮らしていた事 ・だが、突然人間を滅ぼし、MS族だけの世界を作ろうとした『サタンガンダム』が現れた事。 ・自分は仲間と共に『サタンガンダム』を倒すために旅に出たこと ・苦難の末、仲間の力と三種の神器の力で『サタンガンダム』を倒した事。 ・最後の最後で、『サタンガンダム』の魔法を受けてしまい、この世界へ飛ばされた事。 それらの事をゆっくりと、時には所々に説明を入れながら、ナイトガンダムは話した。 「なるほどねぇ~、話を聞く限りじゃ車なんかは勿論、電気すら日常生活では使って無さそうね。 こっちの時代で言うと中世ヨーロッパっぽい所か~」 腕を組み、『ウンウン』と頷きながら『納得した』といいたげに頷く忍。 だが、ナイトガンダムはその反応に納得がいかなかった。だから素直に口にした。 「信じるのですか・・・・・・私の話を・・・・・」 彼からしてみれば、自分の話を素直に信じてくれる彼女達の方が信じられなかった。 そもそも、この世界『チキュウ』では自分のようなMS族は存在しない。正に自分はこの世界では『異物』である。 正直『化け物』と罵られて当然なのだ。だが、彼女達は自分を物珍しそうに見てはいるが、けっして恐れてはいなかった。 ナイトガンダムの質問に、忍たちは一瞬ポカンとするが、数秒後には皆一斉に笑い出した。 「ふふふっ、ごめんなさい。急に笑って。だけどガンダム、「信じるのですか」といっても、『貴方』という生き証人が目の前にいるじゃない?」 「それに、ガンダムさんが嘘を言っているとは思えないよ」 何の疑いの色も感じさせない瞳で、自分を見据える忍達に、ナイトガンダムは自分の考えを恥じた。 彼女達は自分の事を疑ってはいない。それ所か、何の警戒も無しに保護してくれた彼女達を、自分は疑ってしまった。 正直、情けない気持ちと罪悪感で胸が一杯だったが、今は素直な気持ちでお礼を言いたかった。 ナイトガンダムは席を立ち、数歩後ろへ下がる。忍達が見渡せる位置まで下がると、先ほどすずかに行った様に跪いて頭を垂れた。 「忍殿、ノエル殿、ファリン殿、すずか。何処も知らぬ私を保護してくれた事、そして、私の話を信じていただいた事に改めて感謝をいたします」 「いいのよいいのよ、そんなに畏まらなくても。ほら頭上げて」 忠誠を誓う様に跪くナイトガンダムの姿に、忍は内心では『う~ん・・・・悪くないわね~』と思いながらも、頭を上げる様に言う。 「まぁ、事情は分かったわ。ノエル」 「はい、ガンダム様のお部屋ですね。直に用意を致します」 忍とは長い付き合いのため、瞳を見ただけで何をして欲しいのかを理解したノエルは、笑顔で答える。 「というわけだから、このまま家に厄介になっちゃいなさい。この家に住んでるのは私達だけだから心配要らないわ。」 流石に、そこまでしてもらうわけにはいかないと言おうとするが、この世界では自分は異質な存在。 それこそ外にでたら大騒ぎになってしまう。その事を忍達の説明で理解していたナイトガンダムは、彼女達の行為を素直に受け入れる事にした。 「度重なるご好意、このナイトガンダム。感謝の言葉も見つかりません」 「だからそんなに畏まらないで。だけどこう言う状況だと、正に『姫に忠誠を誓う騎士』って感じね。そう思わない?」 空になった各自のティーカップに、おかわりのお茶を注いているファリンに話を振る忍。 「ふふっ、そうですね。でも、忍様には既に『騎士』がいらっしゃるじゃありませんか」 屈託の無い笑みで答えるファリンに、忍は顔を真っ赤にしながら照れを隠す様に無言でファリンの背中をバシバシと叩く。 「あ~も~!!ファリンったら!!恥ずかしい台詞禁止!!!」 そんな光景を止める所か、微笑ましく見ていたノエルはすずかに話しかける。 「そうですね。私達に関しては忍様達に仕えるメイドという立場がありますから・・・・ガンダム様は、すずか様の『騎士』ですね」 「そんな、勝手に決めちゃガンダムさんに申し訳ないよ。むしろ『騎士』なら外国人のアリサちゃんのほ・・・・・ああああ!!!!」 突然叫び声をあげながら立ち上がるすずかにびっくりする一同。そして 「今日・・・アリサちゃんが家に来るんだった!!」 その発言により、今度は一同(ナイトガンダム以外)が慌てる事となった。 ・月村家リビング 「いい、プランは2つあるわ」 場所は移り変わってリビング。そこでは伊達メガネをかけた忍がホワイトボードを背に仁王立ちしており、 目の前のソファーに行儀良く座るすずか達を見つめていた。 「その・・・・あの・・・・二つのプランというのは・・・・・」 あまりの迫力にビビリながらも、ファリンがおずおずと手を上げながら尋ねると、忍はメガネを光らせながら、 「よく言ったぁ!!!」 とハイテンションに叫びながら水性マジック(赤)で二つのプランを書き出した。 『プランその1=永遠にかくれんぼ作戦』 『プランその2=俺はキカイダー作戦』 書き終えた忍はホワイトボードを平手で叩き、無理矢理注目させようとするが、 「・・・・・・・さて、アリサ様達のおやつでも作りましょうか」 「あっ、子猫達のミルクの時間だ」 「ガンダムさん、屋敷の中を案内しましょうか?」 「ええ、是非お願いします」 「皆して無視すんなぁああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」 忍の叫びが屋敷に木霊した。 「・・・・忍様・・・・・・色々と突っ込みたい所が満載なのですが・・・・先ずはそのネーミング・・ではなく どんな内用か教えていただけませんか?」 オデコに手を載せ「やれやれ」と頭を振りながら質問をするノエルに 「しょうがないな~!!」 と、嬉しそうに偉そうに(実際、この家では一番偉いので間違ってはいない)言い放ちながら作戦内用を話し始めた。 「先ずは『永遠にかくれんぼ作戦』。これはぶっちゃけ、ガンダム君をこの月村家に監禁するって寸法よ。これならばれる心配無し! 次の『俺はキカイダー作戦』はそのままの意味で、ガンダム君にロボットに成りすましてもらう作戦。正に『月村の科学力は世界一』わかった?」 説明が終った忍は皆に意見を聞くために顔を向ける。 すると皆(ナイトガンダム以外)が声をそろえて 「「「プランその二!!!(ですね)(です)」」」 を推薦した。 「・・・・・・・はぁ・・・・・」 皆のテンションについていけないナイトガンダムは、ただ生返事をする事しか出来なかった。 ・二時間後 「・・・・・・遅いな・・・・・アリサちゃん」 空になったティーカップの淵をなぞりながら呟くすずか。 普通なら既にアリサが来ており、一緒にゲームをしているであろう時間。だが、アリサは未だに来ないでいた。 「携帯電話にも繋がらない・・・・・・どうしたんだろ?」 急用でも出来たのかと思い、アリサの携帯電話に連絡をしてみるが、いくらやっても 『電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないため、かかりません』という音声アナウンスが流れるだけであった。 少なからず心配になったすずかは、おそらく鮫島さんかメイドさんには繋がるだろうと思い、アリサの家に連絡しようと携帯電話を操作しようとしたその時、 月村家の電話が鳴り響いた。 直に電話を取ったノエルは、二言三言話終えた後、静かに受話器を下ろす。 そしていつも以上の冷静な声で忍を呼んだ。 「アリサちゃんが・・・・」 「はい、こちらに来ていないかと、鮫島様から連絡が・・・・・」 真剣な顔で話をする忍とノエル。本来ならすずかは二人の邪魔をしない様に静かにこの場から去るのだが、 二人の深刻な顔、そしてアリサの名前が途端、 「アリサちゃんがどうしたの!!?」 大声を出し、二人の会話に入り込んだ。 「すずか様・・・・あの・・・・・・」 すずかの普段見せない必死な顔にノエルは言葉を詰まらせる。 忍も黙り込むが、観念したように溜息をついた後、電話の内容を話し始めた。 「アリサちゃんがね・・・・・・・家に帰ってこないのよ・・・・・・だから鮫島さんから電話があってね。家にいないかって」 「えっ・・・だって・・アリサちゃんは・・・・・うちに来てないよ・・・・・」 「ええ・・・・だから何かあったのかもしれないって。寄り道してるんじゃないかって言ったんだけど、 今日はアリサちゃんのお父さんが早く帰ってくるらしくって・・・・・・・」 忍はそこで言葉を詰まらせるが、すずかはすべてを理解した。 アリサは俗に言う『お父さんっ子』である。そんな彼女が普段は仕事で中々会えない父親と会えるのだ。 どこかに寄り道しているというのはおかしい。それ以前に連絡か何かを入れる筈である。そうなると・・・・・・ 考えれば考えるほど、嫌な不安がすずかの頭を過ぎる。 そんな妹に、姉である忍はゆっくりとしゃがみ、同じ目線ですずかを見据えながら、安心させる様に頭を優しく撫でる。 「ほら、そんな泣きそうな顔しないの。まだ何かあったと決まったわけじゃないんだから。ね?」 安心させるように笑顔で励ます忍に。すずかはゆっくりと頷いた。 「よし、それでこそ私の妹だ。ノエル、車を用意して、私達も探しに(待ってください」 突然聞こえた声に、そこにいた一同が一斉に振り向く。するとそこには、ナイトガンダムが普段戦いで見せるような表情で立っていた。 「私も連れて行ってください。人数は少しでも多い方がいい筈です」 「・・・・・・わかったわ。お願いする。ファリンはすずかと家で待ってて。ガンダム君、ついてきて。直に出発するから」 ファリンがすずかを連れてリビングから出たのを確認した忍は近くのコート掛けから自分とノエルのコートを持ち玄関へ向かう。 ナイトガンダムも直に忍の後を追おうとするが 「待って!!ガンダムさん!!」 ファリンに連れられ、部屋に帰った筈のすずかが息を切らせて戻ってきた。 その手には愛用のマフラーと写真を持って。 「これ・・・・外は寒いから・・・・。あと、この子がアリサちゃん・・・・・・だから・・・その・・・」 ナイトガンダムの首ににマフラーを掛け、アリサの写真を渡すすずか。その行為に、早速お礼を言おうと彼女の顔を見るが、 不安で押しつぶされそうな彼女の顔を見た途端、口をつぐむ。そして、彼女との初対面でやった様に目の前で跪き、頭を垂れた。 「すずか。私、騎士ガンダムは必ずや、貴方のご友人を無事に見つけ出す事を誓います。ですから、私達を信じて、お待ちください」 ナイトガンダムの誓いの言葉を聞いたすずかは一瞬キョトンとするが、直に安心したような笑顔を作った。 「分かりました。ナイトガンダム、必ずアリサちゃん見つけてきてください。ただし、一つ命令をします」 「何なりと」 「必ず、無事に帰ってくること。約束してください」 「御意」 約束するように深々と頭を下げた後、立ち上がり、直に忍の後を追った。 ・???? 「・・・・ん・・・・・ここ・・・は・・・・」 朦朧とする意識の中、アリサ・バニングスはゆっくりと目を開ける。 先ず目に付いたのは真っ暗な景色、だが、暫らくすると目が慣れ、辺りが見えるようになった。 割れた窓ガラス、彼方此方タイルが剥がれている床。コンクリートがむき出しになっている壁とそこに書かれている落書き。 散乱している缶などのゴミ。この事から自分がいる所は廃棄されたビル。割れた窓ガラスの景色から見るに、自分がいる場所は 市街地の外れ、おそらく丘の上の墓地の近くにある、取り壊されずにそのまま放置されているあの廃ビルであろうと考える。 続いて今の自分の状態を確認する。 両手両足が縛られており、近くには学校のカバンと壊れた携帯電話。 なぜ自分はつかまっているんだろう?と考えた途端、数時間前の出来ごとがフラッシュバックのように頭をよぎった。 「確か、学校ですずかと一緒に遊ぶ約束をした後、鮫島の帰りをまってたんだっけ。なのはもすずかも掃除当番で遅かったから 今日は一人で帰ることになって・・・・・・校門で待ってたら・・・・・パパの知り合いって人が尋ねてきて・・・・・・ 最初は怪しいと思ったんだけど・・・・今日パパの帰りが早いことも知ってたし、パパの会社の社員証をもってたら、信用して、 鮫島には悪いと思ったんだけど、すずかの家に持ってくゲームの整理や、パパに食べてもらいたいクッキーの下拵えとかしたかったから。 その人と一緒に家に向かっている途中で・・・・誰かに強い力で押さえつけれて、騒ごうとしたらなにか変なにおいがする布を押し付けられて・・・・・」 ここでアリサの記憶は途切れた。だが、最後にはっきりと憶えているのは 「おやおや、ようやくお目覚めですか?アリサお姫様?」 自分を騙し、自分をここに監禁させている男の顔だった。 「ここで分かれましょう」 ノエルの運転する車から降りたナイトガンダム達はアリサを手分けして探す事にした。 商店街や海沿いはアリサの関係者が探している。そのため忍達は市街地の外れ、神社や山奥を探す事にした。 「見つけたら直に連絡を、ガンダム君も、連絡する時はこれを使ってね」 そう言い、忍はポケットから予備の携帯電話を取り出し、ナイトガンダムに渡す。 「この辺なら、人があまりいない分、ガンダム君も行動はしやすい筈よ。お願いね」 「分かりました。皆さんも気をつけて」 ナイトガンダムの気遣いに、二人は笑顔で頷いた後、一斉に行動を開始した。 「あんた・・・・・どう言うつもり?これ、犯罪よ!!?」 捕まったことへの恐怖感を誤魔化す為に、いつもの強気な態度で言い放つ。 だが、アリサを誘拐した男はその態度を鼻で笑いながらゆっくりと近づいてくる。 「ふふっ、さすがはあのバニングス氏の娘さんだ・・・・・お気が強い」 「・・・・・あんた、一体何が目的・・・・?」 「何、君のお父さんに、幾つかの取引きから手を引いてもらうようにお願いするだけだよ。 まぁ、いくら仕事人間の彼でも、娘の命には変えられまい」 「(こいつ・・・・パパの・・・)・・・・・・ふざけないで・・・・」 アリサは言葉を吐き捨てながら余裕たっぷりの笑みで答える男を射殺さんばかりに睨みつける。 同時にこの男が語った内容を頭の中で整理する。 「(・・・・・こいつは、『幾つかの取引きから手を引いてもらう』って言った。ほぼ間違いなくパパのライバル会社の回し者。 多分直接関与するとマズイだろうから、この男は雇われてるのね。だけど、普通の手段で勝てないからって誘拐なんで真似をするなんて) ふふっ、情けない相手」 アリサは可笑しくて仕方が無かった。相手があまりにも情けなくて。むしろ哀れにも思える。 「・・・なんだと?」 急に不適に笑い出したアリサに、男も余裕の笑みを崩す。 「だってそうでしょ?パパに実力で勝てないからってこんな手を使うなんて。情けないと思わない?はっ、こんな 馬鹿な方法しか思いつかないなんて、そいつ、先はなが(パシッ!!!」 突然の男の平手打ちがアリサを襲った。 お嬢様と言われるアリサでも、決して甘やかされて育てられたわけではない。父親に叩かれた事も何回かある。 だが、そのすべてがアリサに非があったため、父親から与えられるその痛みを甘んじて受け入れる事ができた。 だが、今回のは違う。一方的な、理不尽な痛みだ。 「うるせぇガキだ・・・・・・まぁいい。今から黙らせてやる。いや、騒がしくなるかなぁ?おい!!」 先ほどとはうって変わってドスの聞いた声で叫ぶ男。 すると、奥の部屋から数にして4人の男が歩いてきた。どの男も自分の姿を見た途端、欲望をむき出しにした笑みを浮かべる。 「ヒッ!」 その男達の姿を見たアリサは顔を引きつらせる。 彼女は今回ほど自分の知識の多さを後悔した事は無い。 分かってしまったからだ、自分がこれから何をされるのかを。どんな目に遭うのかを。 「ひゅ~、アリサちゃん、自分が何されるか分かってるんだ~。最近の小学生は進んでるねぇ~」 後から来た男の一人が、口笛を吹きながら嬉しそうに呟く。それに釣られて笑い出す男達。 彼らは楽しんでいた。アリサの怯える姿を、同時に感謝をしていた。このような娯楽を提供してくれた雇い主に。 「悪いね~、アリサちゃん。今から君が思っている通りのことをするよ~。でも安心してね、君の初めてはちゃ~んと記録するから」 ビデオカメラを構えた男が、ニヤつきながらアリサの姿を撮影し始めると同時に、残りの男達がジリジリと距離をつめていく。 「いや・・・いやぁ!!!!」 恐怖に耐え切れなくなったアリサは堪らずに叫ぶ。 「こいつ!暴れるな!!」 業を煮やした男達は暴れるアリサを力づくで押さえつける。どうにか逃げようともがくも、 大の大人が3人がかりで押さえつけているため、動く事ができない。 ならせめて罵倒でも浴びせてやろうとするが 「おい!口になんか詰め込んどけ!!」 「なにするムグッ!!」 おそらくは男達の所持品であろうハンカチを無理矢理口につめられ、声も出す事が出来なくなった。 そのため、恐怖も一段と増し、自然と目を閉じる。 「(いや・・・・・こんなの・・・・・・いや!!!)」 本当ならすずかの家で遊んだ後、パパと一緒に食事をしているであろう時間。 だが現実では手足を縛られ、目の前の男達にいやらしい事をされようとしている。 「おいおい、俺は騒ぐ方が良かったんだけどなぁ~」 「文句言うなよ。楽しめる上に金までもらえるんだ。これ以上我侭言ったら天罰が下るぜ」 いっそ思いっきり泣いてしまおう。そうすれば少しでも気が紛れるかもしれない。 「さて、先ずは俺からだ。さ~て、アリサちゃん脱ぎ脱ぎしましょ~ね~」 男の生暖かい息が肌に触れる。制服のリボンが取られる。 いや・・・・・泣くものか。泣けばあいつらは喜ぶだけだ。 「(・・そうよ・・・・私は、アリサ・バニングスよ!泣くなんて絶対しない!泣いてたまるもんですか!!!)」 腹は決まった。私は泣かない。私は屈しない。絶対に!!! せめてもの抵抗にと、目の前にいるであろう男を睨みつけてやろう目を開ける。 案の定、目の前には興奮しているのか、息を荒くする男の顔があった。その変態男と目が合ったため、射殺さんばかりに睨みつけようとしたが 「グギャ!!」 彼女は男を睨みつける事が出来なかった。 当然だ、男は真横から飛んできた空き缶の直撃を受け、彼女の目の前で奇声をあげながら真横に吹き飛び、ゴミが散らかっている床に顔から着地。 そのまま鼻血を面白いように出しながら体を痙攣させ、気絶したからだ。 アリサは無論、突然仲間が吹き飛んだ事に唖然とするが、直に空き缶が飛んできた方を向く。するとそこには 「・・・・・ロボット・・・・?」 アリサの足を抑えていた男が第一印象を呟く。 大きさからして1メートル強。西洋の甲冑のような物を着たロボットが、自分達を睨みつけていた。 「何だぁ?テメェは!!?」 見た目から、恐怖感や危機感を感じなかった上、せっかくの楽しみを邪魔された事に、 アリサを押さえつけていた男は強気な態度を取る。だが、 乱入者は浴びせられる罵倒を無視し、アリサの足を押さえている男に近づく。 楽しみを邪魔された上に、無視までされた男は、顔を真っ赤にしながらアリサの足から手を離し、 「無視すんじゃねぇ!!!」 感情に任せて、殴りかかった。男の拳が迫るが、乱入者はそれを軽々と受け止める。そして 「外道に語る言葉など・・・・無い!!!!!!」 乱入者・ナイトガンダムは掴んだままの男の拳を引き、男の体を無理矢理こちらに寄らせる。 そして十分リーチが届く距離まで近づいた瞬間に 「ドゴッ!!」 男の顔面に強烈なストレートを放った。 その結果、男は最初に吹き飛ばされた男同様に奇声をあげながら倒れこむ。 その姿にアリサの手を拘束していた男は、顔を引きつらせ、逃げようとするが 「逃がさん!!!」 ナイトガンダムは飛び上がり、先ほどストレートを放ち、ゆっくりと倒れこんでいる最中の男の頭を踏み台にし、さらにジャンプ。 一気に加速をつけながら体を回転させ、背を向け逃げようとしている男の背中に蹴りを叩き込んだ。 「な・・・なんだ・・・こいつは・・・・・・」 陵辱されるアリサを撮影する筈だった男は、今は自分達の仲間を次々と倒していく乱入者を写していた。 こいつは一体何なんだ?ロボットなのか?生物なのか?この女の子の知り合いなのか。 自問しながらも、自分でも不思議なほどに冷静に、真剣にカメラを回す男。 だが、男の撮影はここで終る。 ナイトガンダムが放った拳が、男の鳩尾に直撃したからだ。 「う・・・動くなぁ!!!!!!」 狂ったように叫び声をあげながら、仲間をすべて倒したナイトガンダムに向かって叫ぶ男。 その手には拳銃が握られており、恐怖で震えてはいるものの、その狙いは真っ直ぐナイトガンダムに向けれていた。 「てめぇは・・・・てめぇは・・・・・何者なんだよ!!!」 叫びながら連続して3発放つ。だが、手の震えで照準がずれているため、ナイトガンダムには当たらず、床と壁に小さな穴を開ける結果に終った。 突然の発砲音にアリサは目を瞑り、身を縮ませる。 だがナイトガンダムは動かず、真っ直ぐに男を見据え、ゆっくりと歩き始めた。 「見・・・見るな・・・来るな・・・来るな・・・・・見るなぁ!!!!」 口から涎を撒き散らしながら連続して発砲。 乾いた音が廃ビルに響き、そのたびにアリサは体を震わせるが、ナイトガンダムは恐怖を全く表さずに歩み続ける。 むしろ恐怖を感じているのは発砲を続ける男の方だった。 拳銃の弾を恐れずに自分に向かってくる、ロボットなのか生物なのかも分からない者。ただ、その瞳は 倒すべき敵を・・・自分を・・・・ずっと見つめていた。 「だから・・・・来るなって・・・・・見るなって・・・・・言ってるだろ!!!!」 もう男には狙いをつける余裕も無かった。だが、距離が近かったため、我武者羅に撃った最後の2発がナイトガンダムの鎧に当たる。 だが、せっかく当たった弾丸も強固な鎧に弾かれ、小さなキズを作るだけに終った。 「満足か?」 震える男の前で立ち止まり、静かに尋ねる。 「あ・・・ああああ・・・・・・」 「答えないのなら構わない。だが、貴様は、我が恩人の友を辱めようとした・・・・・その報いは・・・・・受けてもらう!」 前へジャンプし、一気に相手との距離を詰めたガンダムは鳩尾に拳を放つ。 着地と同時に、うずくまる男のあごに向かって、トドメとばかりに、救い上げるように拳を放った。 一部始終を見ていたアリサはただ呆然とするばかりであった。 自分のピンチに突然現れ、誘拐犯達を次々と打ち倒したロボット。 いや・・・そもそもロボットなのだろうか? アリサにはそうには思えなかった。確証などは勿論無い。ただ、そんな風に感じるだけなのだが・・・・ 「大丈夫かい?」 考え事をしていたため、突然の声にビックリはしたが、被害と言えば制服のリボンを取られた事位なので 『大丈夫』と返事をしようとしたが、 誘拐犯が無理矢理口に詰め込んだ布のせいで、声を発せずにいた。 「酷い事を・・・・・・ちよっと待ってて」 駆け足で近づいてきたナイトガンダムによって詰め込まれた布と、手足のロープを解かれたアリサは、ふらつきながらも どうにか立ち上がる。 「あの・・・・助けてくれて・・・ありがとう・・・・・えっと・・・・」 次の言葉が見つからずに、途方にくれるアリサに、ナイトガンダムは跪き頭を垂れた。 「申し遅れました。私、ガンダムと申します。アリサ・バニングス殿ですね」 「は・・・・・はい。そうです」 「月村すずかの命により、貴方を探しに参りました。これを」 背中に備え付けてある布袋から、すずかから渡された写真を取り出し、アリサに渡す。 「これ・・・・・」 なのは、アリサ、すずかの3人が写っているこの写真。 これはパパのカメラを使って、鮫島に撮ってもらった写真。世の中に3枚しかない大切な写真。 アリサは無意識に、その写真を抱きしめる。優しく、愛おしく。 その間、ナイトガンダムは何も言わなかった。黙ってアリサの言葉を待つ。 「・・・・・・よし!帰りましょ!その・・・ガンダムさん?」 「ガンダムで構いませんよ」 「わかったわ、私もアリサでいいわ。それとこれ、すずかに返しといて」 渡された写真を返そうと一歩前に出たその時、突然アリサは崩れ落ちた。 突然体に力が入らなくなった事に驚くが、自分の体である。原因は直にわかった。 「はははは・・・・・腰が・・・・抜けちゃった・・・・・」 今までの恐怖や緊張が一気に体に襲い掛かったため、体が素直に反応した結果であった。 「ごめん・・・ガンダム・・・・ちょっと手をかし・・・・・・」 起き上がるために手を借りようと手を伸ばすが、ナイトガンダムはその手をすり抜け、ゆっくりとアリサを抱きしめた。 「えっ・・・・・・ちょ・・・・・・」 アリサはナイトガンダムの突然の行為に顔を真っ赤にするが、自然と不快感は感じなかった。そして耳元で聞こえる声 「アリサ殿・・・・・・貴方は強い。あのような事があっても、自分を見失わずに振舞う事が出来る。おそらくは 皆の下へ帰っても、同じ様に振舞う気でしょう」 ナイトガンダムの言葉には間違いは無かった。だからアリサは黙って聞く。 「ですが、それでは貴方の心が壊れてしまう。ですから今この場で、今の貴方の本当の気持ちを吐き出してください」 「・・・・・何・・・・言ってるのよ・・・・・私は・・・・わた・・・・し・・・・・・」 口ではどうにか否定しようとするものの、彼女も既に限界だった。 だから、素直に従う事にした。彼の行為に 「あ・・・・・うあ・・・・・・うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!怖かった!・・・・怖かったよ!!!」 ナイトガンダムにしがみ付き、一心不乱に泣き叫ぶアリサをナイトガンダムは 時より落ち着かせるように優しく背中を叩きながら黙って受け止めた。 ナイトガンダムが忍達に連絡をしたのは、それから数分経ってからの事であった。 ・おまけ 「落ち着いたかい?」 「うん・・・・・その・・・・・ありがとう」 「どういたしまして、それじゃ皆に無事を連絡しよう。皆も心配している」 「うん。あっ、でも携帯電話・・・・・・あいつらに・・・・・」 悔しそうに床に転がっている通学カバンを見つめるアリサ。 そこには、踏み潰されて壊されたであろう携帯電話の残骸が無残に散らばっていた。 おそらく、自分を誘拐した後に、カバンの中から見つけて真っ先に壊したんだろうと思った。 「『ケイタイデンワ』ですか?それでしたら、忍殿から連絡する時に使ってくれと渡されました」 写真を入れていた布袋から、忍から渡された携帯電話を取り出し、アリサに見せる。 「GOOD JOBよ!!それじゃあ早速連絡!」 「はい」 頷きながら返事をし、携帯電話を見据える。 10秒経過 20秒経過 30秒経過 「(どうしたんだろう・・・・)」 深刻な顔をしながら携帯電話を見つめるナイトガンダムに、 アリサは『如何したのか?』と聞こうとすると 「・・・・・・アリサ・・・・・・申し訳ありません・・・・・・」 申し訳無さそうに頭を垂れるガンダムに 「なっ・・・ど・・・どうしたの!!?」 アリサは堪らず尋ねた。すると、腹の底から搾り出す様な声で 「『ケイタイデンワ』の使い方が・・・・・・・分かりません」 アリサは堪らずこけた。それはもう綺麗に。 前へ 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魔法少女リリカルなのは外伝・ラクロアの勇者 第六話 月村家正門前 時刻は午前5時30分。 辺りには朝霧が立ち込め、早朝特有の寒さが辺りを支配する冬の朝。 駅では始発電車が走り出し、新聞配達人が漕ぐ自転車が町をそれなりのスピードで各家庭を回る。 なのはの両親が経営する喫茶翠屋ではモーニングセットの準備をする桃子がせわしなく動いており、高町家の道場では木刀がぶつかり合う音が響き渡る。 月村家では月村姉妹が揃って未だに寝息を立てており、ファリンは充電中。 ノエルは朝食の準備を始め、ナイトガンダムはデッキブラシと洗浄液が入ったバケツを持って廊下を歩いていた。 それぞれが、朝から自分の仕事を行なう何時もとあまり変わらない海鳴市の朝。 「ふ~ん・・・・・ここが月村忍の屋敷ね・・・・」 そんな肌寒い朝の月村家の門の前に、一人の少女がいた。 歳からして忍と同じ、もしくは少し若い程度。 赤いカチューシャで飾られている長い金髪の髪の毛は、右耳を隠すように右サイドに垂らしており、 紫色の瞳は彼方此方落書きされた月村邸の壁を面白そうに見つめている。 真冬の早朝にも関わらず、素足を露出したチャイナ服に酷似した服を来た少女は、全く寒さを感じさせずに 壁に書かれた落書きを面白そう見つめていた。 「・・・・・安次郎・・・・様もつまらない事を・・・・・ん?」 ふと、足元に障害物を感知した少女は自然と目線を向ける。そこには 「にゃ~」 猫がいた。 大きさからして子猫。月村家で放し飼いにされている子猫が、ゆっくりと近づいてきた。 少女は無視を決め込むため、直に目線を逸らそうとするが、構って欲しいのか、子猫は少女の足元まで近づき、顔を擦り付け、じゃれ始めた。 「・・・・・・まったく・・・・・・・」 大きく溜息をついた少女は小さく笑いながらしゃがみ、じゃれ付く子猫の頭を撫でる。 頭を撫でられた子猫も、嬉しそうに目を細めるが、突然体を一瞬硬直させた後、少女から離れ正門に向かって走り出す。 そして子猫が正門の前まで来た瞬間、門を開ける重い音が辺りに響き 「おや?何時の間に外に出ていたんだい?」 少し大きめのデッキブラシと洗浄液が入ったバケツを持ったナイトガンダムが、目の前で座りながら自分を見上げている 子猫に笑顔で尋ねる。そして、直に様子を伺うように自分達を見ている少女の視線に気が付く。 「(こんな格好で寒くは無いのだろうか?)おはようございます。朝早くどうされました?」 数メートル離れて自分を見つめる少女の第一印象を内心で呟きながらも、ナイトガンダムは笑顔で朝の挨拶をする。 少女は短く「別に・・・」と答えた後、観察するようにナイトガンダムを見据えた 「(何こいつ、データには無かった?ロボット?月村家から出てきたってことは、月村忍が新しく作ったの?・・・・・まぁ、 素体が残っていたとは言え、月村忍は安次郎と違って自動人形を二体も作ったんだから、可能でしょうけど・・・・)」 興味から警戒へと変わったのか、自分を見据える瞳が険しい物へと変化した事を感じたナイトガンダムは、 とりあえず、ここの住人であることを知って貰うため自己紹介を行なった。 「申し遅れました。私、この家の主、月村忍殿によって作られたロボット、ガンダムと言います。」 忍に言われた通りに自己紹介をしたナイトガンダムに、少女は「ふぅ~ん」と納得したように呟いた後、目線を落書きだらけの壁に映した。 「だけど、酷い者ね。この家の趣味?」 「いえ、たちの悪い悪戯です。一体誰が・・・・・・・・なにかご用件でこちらに?申し訳ありませんが、忍殿達は 未だ就寝中。メイド長のノエル殿でしたら起きていますが?ご案内いたしましょうか?」 「へぇ~・・・・ノエルね・・・・・いいわ。大した用件じゃないし。仕事、頑張ってね」 手を振りながらその場から去る少女。だが、子猫は少女の事を気に入ったのか、帰ろうとする少女の後を追いかける。 それに気付いた少女は小さく溜息をついた後、地面にしゃがみ、再び頭を撫でた。 「貴方の家はここでしょ?ついてきちゃ駄目」 優しく子猫に語りかける少女に、子猫も納得したのか、一度鳴いた後その場に座り込んだ。 「よろしかったら、また来てください。この子達も喜びます」 その光景を微笑ましく見ていたナイトガンダムは、また来るようにと少女を誘う。 「ええ・・・・また来るわ、近いうちに。あと、同類のよしみとして忠告しておくわ。貴方、ここから出て行きなさい。故障じゃ済まなくなるわよ」 怪しげに微笑みながら、誘いの了承と忠告とも言える発言を残した少女『イレイン』は、今度こそその場を後にした。 ナイトガンダムはイレインの残した言葉の意味を考えようとするが、先ずは人目につく前に壁の汚れを落とす事を優先する事にした。 ブラシをバケツに入った洗浄液に浸し、汚れを落とすために壁をこすり始めた。 数時間後 「それじゃあ、行ってきます」 「いって参ります」 海鳴市に引っ越してきたフェイトに会う為、待ち合わせ場所である商店街のペットショップに向かうすずかとナイトガンダム。 ナイトガンダムに関しては、フェイトだけではなく、周囲の人達の紹介の意味も兼ねた外出であった。 その姿を姉である忍は、笑顔で手を振りながら見送り、二人が見えなくなったのを確認してから、 「・・・・ノエル・・・・・・捕まえた?」 彼女は普段からは想像できないほどの冷たい声で呟く。 その呟きに答えるように、何時の間にか忍の後ろに立っていたノエルは一度いやうやしく頭を下げた後、淡々と答える。 「・・・・・はい、忍お嬢様。案の定、ただの部外者でした」 「おそらく『お金をもらってやりました~』ってオチでしょう?」 「その通りです。頼んだ相手は『緑色のスーツを着た偉そうなおっさん』だそうです・・・・・やはり」 「安次郎ね・・・・・・・・あの狸・・・・・」 忍は険しい顔をしながら呟き、湧き出る苛立ちをどうにか抑える。 「・・・・忍お嬢様、やはりすずかお嬢様の外出を控えさせた方が宜しかったのでは・・・・・忍お嬢様の腕の事もありますから・・・・」 途中から声のトーンを下げて、呟くように話すノエルに、忍は微笑みながら右腕をまくる。 「安心して、腕ならもうくっついたから。ほら」 まくられた右腕には包帯が巻かれていたが、忍はそれをゆっくりと外し、巻かれていた部分をノエルに見せ付ける。 そこには肘の直下の方に、腕を一周する用についている小さなキズがあるだけだった。 「それに、すずかには知られたくないから。こんな汚い大人の悪意なんて。あの子ね、大人しい割には結構勘が鋭いのよ。だから、 下手な嘘は直にわかっちゃう。それにね、今はガンダム君がついてるから安心して任せられるわ。私達はお茶にでもしましょ」 リビングに向かうため、後ろで立っているノエルの横を通り過ぎるが、直に歩みを止める。 「でもね・・・・ノエル・・・もし・・・・私以外の誰かに・・・・・私が受けたような仕打ちをしたら」 ノエルの方を向き、彼女の瞳を見据え忍は答えた。 「・・・・・・・・殺すわ・・・・・・・・・」 彼女の青色の瞳は、自身の怒りを表すかのように真っ赤に染まっていた。 喫茶翠屋 ペットショップでアリサと合流したすずか達は、フェイトが引っ越したマンションへと向かう。 途中ナイトガンダムに向けられる多数の好奇の目線を軽く受け流しながら、3人はマンションに到着。 訪れてきたすずか達を向かえるため、玄関へ向かったなのはとフェイトは、すずか達が来た事への喜びと同時に、 二人の間に平然と立っているいるナイトガンダムに、声をあげて驚いた。 「まったく・・・・二人のあの顔には笑ったわ。貴方もそう思わない?」『わふ~ん』 「アリサちゃん、そんなに笑っちゃいけないよ。ユーノ君もそう思うでしょ?」『きゅ』 獣に変身したユーノ達に向かって話しかける二人に、なのはとフェイトは乾いた笑い声を上げた後、 優雅に紅茶を飲んでいるナイトガンダムに恨めしい目線を向ける。 二人から『忍が作ったお手伝いロボ』として紹介されたナイトガンダムと共に翠屋ヘ向かったなのは達 当然、周囲の人やなのはの家族(リンディに関しては起用に驚いた表情を見せた)は驚いたが アリサが「忍が作ったロボット」と紹介すると 「ああ!納得!!」 全員が手を叩き、納得した表情を見せた。 「(しかし・・・・忍殿の知名度には驚かされる・・・)」 皆の納得具合を目の当たりにしたナイトガンダムは、内心で改めて忍の懐の大きさに驚かされながらも、 隙あらば自分に恨めしい目線を向ける二人を申し訳なく思いながらも軽くあしらう。その時 「(もう!!ガンダムさんったら、別に隠す必要なんかなかったのに!)」 突然頭の中から聞こえるなのはの声に、ナイトガンダムは驚きのあまり、飲んでいた紅茶を吐き出しそうになる。 皆の前でどうにか無様な姿を晒さずに済んだが、突然咽せ始めたナイトガンダムに、アリサとすずかは心配と不審が入り混じった目線を向け なのはとフェイトは互いの顔を見据えた後、悪戯が成功したかのように微笑んだ。 「(にゃはは・・・・・・ごめんね。そんに驚くとは思わなかったから)」 「(『念話』っていってね、離れた相手に連絡したり、こんな感じに相手の頭の中に直接言葉を伝えたりする魔法なんだ。 魔法を使える人なら誰でも出来るから、ガンダムにも出来る筈だよ。こう、心で伝えたい事を思えば・・・・やってみて)」 一度頷いた後、目を閉じ、フェイトに言われたとおりに伝えたいことを思う 「(・・・・・こうかな?)」 「(うん、そんな感じだよ。簡単だったでしょ?)」 「(確かに便利だ・・・・これなら、魔法関係の会話も、すずか達に気付かれずに出来る。ありが)」 早速、念話を使い二人にお礼を言おうとしたが突然頬を抓られたため、そちらに意識が行ってしまい、念話を中断してしまう。 大体予想はついたが、確認の意味も込め、目を開け自分をつねっている相手を確かめる。安の序、アリサだった。 「何さっきから驚いたり目を瞑って唸ったりしてるの!?普通に怪しいわよ!?」 アリサは瞳を吊り上げながら、ナイトガンダムの頬を真横に引っ張る。 事情を知らない者であれば、アリサの突っ込みは当たり前であるため、ナイトガンダムはどう弁明して良い物かと割と本気で考える。 だが、頬を抓られながらも真剣に考えるガンダムに対し、頬を抓っているアリサは途中から面白くなったのか、 引っ張るだけでは飽き足らずに、パン生地をこねるかの様にこねくり回しだした。 「本当にらわらかいわね~。パン生地?白玉?」 もう完全に面白半分でナイトガンダムの頬をこねくり回すアリサに、どうにかアリサを止め様とあたふたするフェイトとすずか。 その光景をニコニコしながら見つめるなのは。そして 歳からして20代後半の男が、白い車の中からその光景を観察するように見据えており、懐から取り出した携帯電話で 連絡を取った後、車を発進させた。 数時間後 その後、『フェイトのお迎えイベント』を日が沈むまで行なったなのは達。日が落ちた頃を見計らった桃子が アリサ達に帰るように諭した所でお開きとなった。 フェイトはリンディと共に帰宅し、アリサはいつの間にか外で待機していた鮫島が運転するベンツに乗り込んだ。 「すずかとガンダムも乗っていきなさいよ。帰りに図書館によっていくけど?」 「ごめん、アリサちゃん。お姉ちゃんに真っ直ぐ帰って来るように言われてるんだ。だから・・・・」 申し訳無さそうに断るすずかに、アリサは「そっか~」と呟きながら残念そうに溜息をつく。 「まぁ、しょうがないわね。それじゃ、明日学校で。鮫島」 恭しく返事をした鮫島が、ゆっくりと車を発進させる。車の窓から身を乗り出しで手を振るアリサを見えなくなるまで見送った二人は 月村家に帰るために、歩き出した。 同時に、一台の白い車が、ゆっくりと動きだした。 「うれしそうだね、すずか」 笑顔で、時より鼻歌を歌いながら隣を歩くすずかに話しかけるナイトガンダム。彼女の影響なのか、彼の顔も自然と綻ぶ。 「うん!明日からフェイトちゃんが同じ学校のクラスメイトになるんだもの。嬉しいよ」 忍達のお土産である翠屋のケーキが入った箱を軽く揺らしながら嬉しそうに答えるすずかに、 「自分としても、喜ばしい限りです」と言おうとした直後、二人の後ろから、道のアスファルトを削るタイヤの音が鳴り響く。 突然の音に驚いた二人が揃って後ろを向くと、一台の白い車が猛スピードで迫ってきた。 「えっ?」 自分達に真っ直ぐ向かってくる車に、すずかはどうして良いのか分からず、立ちすくむ。 いや、本当なら直にでも避けるべきであり、彼女の運動神経なら造作もない事ではあった。だが、 正に自分達を狙って猛スピードで突っ込んでくる車に、彼女は恐怖感に支配されてしまい、動くことが出来なかった。 このままでは数秒後にはすずかは跳ねられ、その小さな体が空に舞う事になる。だが、隣にいる騎士がむざむざその様な事をさせる筈もなかった。 「失礼!」 ナイトガンダムは短く謝ると、すずかの手を後ろから引っ張ると同時に彼女のつま先を軽く蹴る。 突然引っ張られた上に、足を蹴られたすずかは背中から倒れそうになるが、ナイトガンダムの右腕が地面に接触しようとするすずかの背中を優しく抱きとめる。 同時に彼女の両膝の後ろに手を回す。俗に言う『お姫様抱っこ』という形で彼女を持ち上げたナイトガンダムは、即座にジャンプ。 迫り来る車の上を飛び越えることで危機を回避した。 着地して直に自分達に襲い掛かった車の方に顔を向けるが、再び自分達を襲うことは鳴く、そのまま走り去っていった。 「大丈夫ですか?」 安心させるように微笑みながら、ナイトガンダムはすずかをゆっくりと下ろす。 すずかも真似するかの様に笑顔でお礼を言うが、顔からは先程の恐怖が抜け切れておらず、足もガタガタと震えていた。 「(・・・やはり怖かっただろうな・・・・・・なら)すずか、また失礼するよ」 自分がすべき事を決めたナイトガンダムは、早速行動に出る。すすかの返事を待たずに再び彼女をお姫様抱っこし、そのまま月村家に向かって歩き出した。 「えっ!?ちよっと!?ガンダムさん!?一人で歩けるよ!?」 先程まで自身を支配していた恐怖感より、今の自分の現状の恥ずかしさの方が勝ったのか、すずかは顔を真っ赤にしながら下ろすように言う。 だが、ナイトガンダムは彼女の抗議を一切無視し、歩き続けた。 途中からすずかも抗議をするのをやめ、身を任せることにした。だが、その時になって彼女はようやく気が付いた。 「(・・・・あれ、恥ずかしいって気持ちだけで、さっきまで感じていた怖いって気持ちが全然ない・・・・・)」 先程まで自分を支配していた恐怖感が一切鳴く、今の自分の中にあるのは、ガンダムが自分を抱っこしてくれてるという大きな安心感だった。 「・・・・・落ち着いたかい?」 「うん」 「忍殿に借りた本に、このようにすれば、女性は安心すると書かれていました。効果は絶大のようですね」 自分が身に付けた知識を自慢するかのように、多少誇らしげに語りかけるナイトガンダムに、すずかはつい噴出してしまう。 一体自分の姉は彼にどんな本を貸したのか?気になる所ではあるが、今はナイトガンダムに身を任せることにした。 「でも、お姉ちゃん達に見られるのは恥ずかしいから、家の前になったら下ろしてね」 「御意」 時より、自分達を微笑ましく見つめる通行人の視線を気にしながらも、すずかはナイトガンダムに抱っこされ、自分の屋敷へと向かった。 屋敷が目で確認できる所ですずかを下ろした後、再び二人揃って歩き、月村家へと向かった。 その後は、ナイトガンダムに好奇の目線を送る人とすれ違う以外、何事もなく屋敷へと到着したのだが、 「・・・・・あの車・・・・・」 門の前に止めてある見慣れる黒い車を見た途端、すずかの表情が曇る。 「・・・・アリサの車に似ているね・・・・・・ん?」 すずかの表情を気にしながらも、ガンダムは止めてある車へと近づく。だが、近づくにつれ彼の目は止めてある車から、 門と屋敷をつなぐ大理石の道の中央で、話をしている忍達の方へと向けられた。 「お前が、わしの言う事をきいて、ノエルとファリンを渡せば、お前やすずかの事、守ってやってもええねんけどな」 男は一息つくために、右手に持った葉巻を吸い、口から吐き出した煙を忍に向かって噴出す。 葉巻から落ちた灰が、大理石の道に遠慮なく落ちるが、男はそんな事を微塵も気にせずに話を続ける。 男の名は『月村安次郎』忍やすずかの親戚に当たる人物であり、昔から何かと嫌がらせをなどをしてきた人物である。 歳は40代、紫のスーツに身を包んだその体系は中肉中背、いかにも高そうな葉巻を持つ右手の親指以外の指には純金の指輪をはめいてる。 オールバックにした紫色の髪を整髪料で固め、同じく純金で出来ているであろうメガネ越しから忍を見据える瞳は 一見我侭な子供を諭す様にも見えるが、彼という人物を知る人から見れば、腹の底では何を考えているかわらない邪な瞳に見えた。 それから『美術品や土地を渡せ』や、『便利で快適な家を用意する』など、色々と言ってはいるが、忍はそんな話は最初から聞いておらず。 ノエルたちもただ『義務』として耳を傾けるだけであった。 『この男に対してこれ以上譲歩はしない』忍が既に決めていることであり、ノエル達はその決まりを『無視するといけないから話だけはきいてあげましょう』 という自愛の心をもって実行していた。 そんな忍達の態度に業を煮やしたのか、安次郎は不自然にニヤつきながら、彼女達が食いつく話を始めた。 「そういえば・・・・ここん所、走り屋を名乗っ取る馬鹿なガキが、彼方此方に出没しとるらしいな~」 「・・・・聞いた事ないわね・・・・漫画の読みすぎじゃないの?」 隠す事無く小馬鹿にする様に忍ははき捨てる。だが、 「・・・そういえは、すずかはどうした?お出かけか?」 安次郎はニヤつく口元を隠さずに呟く。案の定、『すずか』の名前に反応した忍達に気を良くしたのが、 彼女から発せられる殺気に気付く事無く、話を続ける。 「一人でお出かけは物騒やからな~、その走り屋にうっかり撥ねられたりでもしたら・・・・・っ!!?」 再び葉巻を吸った後、不安で泣きそうな顔をしているであろう忍の顔を見ようとした瞬間、安次郎は震え上がった。 瞳を真っ赤にしながら自分を射殺さんばかりに睨みつけている忍に、そして今更気が付いた、彼女から発せられる殺気に。 だが、安次郎も自分に向けられる殺気を、どうにか受け流すと同時に忍を睨み返す。 「・・・・オマエは・・・・睨みつける事は出来ても、手を出す事は出来ん子やろ?ノエル達も『ワシ』がお前達に手を出さん限り無暗に攻撃はでけへん」 「・・・・・そう?」 先程以上の殺気を放ちながら、忍は安次郎の首を掴む。そして自身の2倍近い体重であろう彼のそのまま片腕だけで軽々と持ち上げる。 「貴方・・・・・私を甘く見すぎね。私自身なら別に我慢は出来るけど・・・・・・すずかや・・・・私の大切な人に手を出すのなら・・・・」 空いている手をゆっくりと引きながら親指を曲げ、残りの指を密着させ真っ直ぐに伸ばす。 「貴方も少しは血を引いているんでしょ?常人が死ぬような怪我でも、大怪我で済むでしょ?試してみようか?」 安次郎やノエル達が何が叫んではいたが、今の忍にはどうでも良い事だった。 今はこの男に自分の本気を・・・・覚悟を示してやる。こいつの体で分からせてやる。 手刀を放つ手に力を込め、無防備な安次郎のわき腹目掛けて放とうとした瞬間、 「忍殿!!!」 無視する事を許さない凛とした叫び声に我に返った忍は、放とうとした手刀を止める。同時に安次郎を掴んでいた腕も離し、彼の拘束を解いた。 咽る安次郎を無視して声のする方を向くと、忍の行動に怒りを表しているナイトガンダムと、その後ろで自分達を見つめるすずかの姿があった。 「いけません、貴方のような優しい方が、人を傷つけては。皆が悲しみます」 自分を見据えながらゆっくりと近づいてくる二人に、忍は先程の行動を反省するかのように俯く。 安次郎の方はむせながらも、近づいてくる二人の、特にすずかの姿に驚きながらも、二人に向け笑みを見せる。 「おお、すずか。久しぶりやな~、元気やったか?」 「・・・はい、安次郎叔父様も、お変わりなく」 ナイトガンダムの後ろに隠れるようにしながら、挨拶をするすずか。 忍ほどではないが彼女も彼の事を知っているらしく、警戒している事は目に見えていた。 「まったく、気が小さいのは相変らずやな。で、隣にいるちっこいのは何や?」 「申し送れました。私、忍殿によって作られたロボット、ガンダムと申します。以後、お見知りおきを」 目線がすずかから自分の方へと移った為、ナイトガンダムは跪き頭をたれ、自己紹介をおこなう。 「ほぉ、忍も面白いモンを作るやないか。そういえばすずか、怪我とかなかったか?白い車なんかに轢かれそうにならんかったか?」 意味ありげな笑顔で尋ねる安次郎にすずかは身を縮ませる。だが、ナイトガンダムがそんなすずかを庇う様に安次郎の前と歩み寄る。 「はい、危ないところでしたが、大丈夫でした。それより良くご存知ですね。轢かれそうになったのが『白い車』だと」 「何?長い人生経験から出た勘って奴や。それにな、仮にすずかが轢かれたとしても、夜の一族の血を濃く受け継いでいる以上、死ぬ事はあらへん」 「夜の一族?」 「なんや?製作者である忍からは何も聞かされてないんかいな?まぁええ、暇つぶしにおしえたる」 先程まで吸っていた葉巻を近くに放り投げ、懐から新しい葉巻を取り出し、火をつける。 「・・・・・忍やすずかを始めとしたうちら一族はな、普通の人間とちゃう。『夜の一族』と称する吸血鬼や。 まぁ、うちは引いている血が薄いから並みの人間と変わらんが、忍とすずかに関しては世界に散らばる『夜の一族』の中でも5本の指に入るほど色濃く血を受け継いでる。 血が濃いってことは、それだけ人間離れしてるってことや。腕を切断されても直にくっついたり、車に轢かれて骨が彼方此方砕けても人の数十倍の速さで回復する回復力。 常人をはるかに超える運動神経ももっとる。忍は勿論、今のすずかでも本気を出したらオリンピックで金メダル総なめとちゃうか?」 安次郎はナイトガンダムの後ろに隠れるように立っているすずかに話を振るが、すずかは俯き、沈黙で答える。 「まぁ、ぶっちゃけて言えば『化け物』や。血を引いているとは言え、薄いうちらと違って色濃く血を引いた正真正銘の吸血鬼。『化け物』。 せやけど、忍も昔はその事にやたらコンプレクスを抱いていてなぁ。『自分は人とは違う』『自分は人には受け入れてもらえない』って怯えて 自分の殻に閉じこもっとったどうしようもない奴や。まぁ、姉妹は似るようやから、今度はすずかが殻に閉じ篭る番やろな」 一方的に話し終わった後、一度葉巻の煙を肺一杯に吸い込み、ナイトガンダムに向かって吐き出す。 避ける事無く、その煙を受けたナイトガンダムは、数秒の沈黙の後、頭を垂れた。 「安次郎殿、ご理解しやすいご説明、誠にありがとうございました」 自分に頭を下げながら礼を言うガンダムに安次郎は満足したのが、声をあげて笑いながら再び葉巻の煙を肺に吸い込もうとする。だが、 「ですが、二つほどおねがいがあります」 「なんや」と安次郎が呟いた瞬間、彼の目の前に何かが通り過ぎる。その直後、彼の持っていた葉巻は挟んでいる人差し指と中指のすれすれの所で、綺麗に切り取られた。 「一つ、ここは禁煙です。葉巻はお控えください」 何時の間に抜いたのか、自分に向かって西洋の剣を突きつけているナイトガンダムに、安次郎は罵倒を浴びせようとするが、彼の瞳を見た瞬間言葉を詰まらせる。 彼の目は、自分を明らかに『敵』として見ていたからだ。 「一つ、忍殿やすずかのことを『化け物』と呼んだ事の撤回と謝罪を要求します・・・・・お早く・・・・・」 先程の忍と同様に殺気を放つナイトガンダムに、安次郎は大きく舌打ちをした後、持ち手の部分しか残っていない葉巻を投げ捨てた。 「あ~も~興醒めや!!胸糞悪い!!!所詮忍が作ったガラクタ、生意気な(止めてください!」 今まで喋らなかったすずかの突然の叫び、それも怒りが篭っている声に、安次郎は勿論、忍達も素直に驚く。 彼女達は決して突然叫んだ事に驚いたわけではない、安次郎は無論、忍達も初めてだったからだ、すずかが本気で怒る所を見たのは。 「安次郎叔父様・・・・・・謝ってください・・・・・・ガンダムさんに」 ナイトガンダムから離れ、怒りの篭った瞳で自分を見据えるすずかに、安次郎は再び舌打ちをした後、すずかとナイトガンダムの横を通り過ぎ 正門へと向かう。だが、途中で足を止め、睨みを利かせた顔で忍達を見据える。 「忍・・・・これが最後や・・・・遺産を譲ってくれや・・・・そうでないとワシは、最悪の選択をせなあかんかもしれんのや・・・・」 「・・・・・・出てって・・・・・今すぐに・・・・・」 はっきりと言い張った忍に、安次郎は深い溜息をついた後、再び門に向かって歩き出す。 「ここ数日は悪戯や不幸は起こらんと思うし、走り屋なんかの物騒な奴も現われんと思う。 ただ、近いうちにわしが満足する返答をきかせてくれへんのなら・・・・ワシは知らん」 皆の耳に残る言葉を残し、安次郎は自分の車へと乗り、月村家から去っていった。 数時間後 その後、暗い雰囲気を打ち消そうと、忍が全員でカラオケに行く事を提案。 この世界の風俗の知識も見につけていたためカラオケの事を理解はしていたが、人前で歌を歌う事の筈かさから 「あっ・・・え・・・私は留守番を・・・」と遠慮がちに断った。だが、 「しったこっちゃないわ!!強制参加!!!」という忍の回答とともに最寄のカラオケ店へ。 珍しくノエルも羽目を外してのドンちゃん騒ぎを数時間に渡って行った結果、すずかは途中で寝てしまい、 忍が背負った帰宅した時には、既に午前0時を回った後だった。 各自が自室へと帰る中、ナイトガンダムは安次郎が残した言葉の事もあるため、見回りをしようと外に出ようとする。だが、 「大丈夫よ、警戒レベルは最大にしておいたし、あいつも、今日来て直にチョッカイ出さないでしょ。それよりどう?」 寝巻き姿で右手にワインが入っていると思われる瓶、左手に二人分のグラスを持った忍に誘われたため、 ナイトガンダムは見回りを止め、彼女の誘いを受けることにした。 「・・・・・ありはとうね・・・・・」 リビングで果汁100%のグレープジュースを一口飲んだ後、忍は中身が半分以上残っているグラスを玩びながら呟いた。 「あの時・・・・私を止めてくれて・・・・私達の為に怒ってくれて・・・・・ホント、貴方、恭也と並んで良い男だわ」 再びグラスの中の液体を煽った後、微笑みながら自分を見つめる忍に、ナイトガンダムはテレを隠すように俯く。 「私は、感謝されるような事はしていません。それに、結果的に私も剣を向けてしまった」 「私と違って傷つけるつもりはなかったんでしょ?言い脅しになったわ」 忍の言葉に安心したのか、ナイトガンダムは初めて自分に注がれたジュースに口を付けた。 ジュースを飲みながら、ナイトガンダムの世界についての質問や、忍の彼氏の話(半分以上はノロケ)で時間を潰す二人。 時刻が午前2時を回り、そろそろ寝ようかと忍が切り出した時、ナイトガンダムはあの時から疑問に思っていたことを尋ねる事にした。 「忍殿、お尋ねしたい事があります」 「ん?何?改まっちゃって?今はご機嫌だから3サイズも教えてあげるわよ」 「・・・・・安次郎殿の事です」 うんざりしている人物の名前を真剣な表情で呟くナイトガンダムに、忍は顔を引き締め、彼を正面から見据える。 特に何も言わないで自分を見据えている忍に、ナイトガンダムは話を切り出した。 「安次郎殿は『遺産を譲ってくれ』と言っていました。ですが、彼の身なりからして見れば、お金に困ってるようには見えません。何か、別の目的が?」 もし彼が、直球に言ってしまえば『貧相』、ある程度緩和して言えば『普通』の格好だった場合、月村家の遺産を 求めるのは理解できる。様々な嫌がらせをしてでも。 だが、自分が見た彼の格好はどう見ても貧相でも普通でもない。高そうな服に両指に嵌めていた指輪、そしてアリサが 移動で使用してるのとそっくりな黒い車。この世界に疎い自分でも、『裕福な人間』だと一目で理解できた。 そんな『裕福な人間』が、姑息な手を使ってまで月村家の財産を欲する理由が、彼には理解できなかった。 「・・・・・あいつは、確かに金持ちよ。ほんと、今の財でも一生遊んで暮らせるお金を持っているのに。私にも何でなんでか分からない。 ただね、あいつが本当に欲しているのは家の金銀財宝じゃない、ノエルとファリンよ」 「・・・・ノエル殿とファリン殿?・・・・・なぜ・・・・」 ナイトガンダムの問いに、忍は沈黙で答える。真夜中のリビングに響く秒針を刻む音が60回を越えたとき、彼女は口を開いた。 「ノエルとファリンはね、人間じゃないの。『自動人形』という『夜の一族』に伝わる技術で作られたロボット・・・いえ、半ロボットね」 人間と信じて疑わなかった彼女達が、機械で出来た人形と知らされたナイトガンダムは、驚きのあまり声を出す事も出来なかった。 「驚いている最中で悪いけど、続けるわね。安次郎が『夜の一族』に関して色々説明してくれたけど、他にも特徴があるのよ。 純潔の『夜の一族』の寿命はね、とても長いの。それこそ、300年とかを余裕で生きることが出来るわ。そんな彼らの付き人として『自動人形』 は作られた。ノエルとファリンはそんな自動人形の生き残り。素体が残っていたから私が作ったわ。まぁ、両親に甘える事が出来なかった すずかの為にって思っていたんだけどね、私も同じだったわ。構ってくれる人が、家族が欲しかった・・・・・・」 一息つくために、忍はコップに残っていたジュースを一気に煽る。 「安次郎はね、そんな彼女達を・・・・正確には彼女達に使われている技術を欲しているのよ。ガンダム君もこの世界の事を勉強しているから分かると思うけど、 ノエル達のような人間そっくりなロボットは今の地球じゃどう頑張っても作る事なんて出来ない。ちなみにガンダム君の場合は見た目がロボットだし 機械工学に関しては私も名が知られてるから、『簡単なプログラムを組み込んだお手伝いロボット』って事で普通に通すことが出来たわ」 ガンダムはふと昨日の出来事を思い出してみた。確かに町の人々は自分が『忍殿に作られたロボット』と言った途端、妙に納得していた事を。 「正に『遺失技術』。そんな技術をお金に換えたらどうなると思う?金額を見るだけで馬鹿らしくなるわ。 あいつの目的はその『馬鹿らしくなる程の金額』よ。まったく、仮にノエル達を手に入れたとしても、解析なんて出来る筈が無いのに」 「解析出来ない・・・・・構造を理解する事が出来ないという事ですが?」 「そう。さっき言ったと思うけど、私はノエル達を『素体』が残っていたから作ったの。 その素体を含めた、各箇所の構造は私でも全てを理解する事が出来ない。うぬぼれじゃ無いけど、 あいつらが理解できるなんで思えないわね。それをあいつは理解していない。『自分なら出来る』と思ってる。とんだお祭頭ね」 「忍殿も全てを把握できないとなると・・・・・ノエル殿達『自動人形』を作った古来の『夜の一族』の方にでも聞かない限りは無理でしょうね」 ナイトガンダムが話した後、再び沈黙が訪れる。これで話が終ったと思ったため、色々と話してくれた忍に感謝の言葉を言おうとした時、 「・・・・・・・今から話すことは・・・・・・誰にも言っていないの。すずか達や恭也・・・・・素体をくれたさくらにも・・・・・聞いてくれる?」 他言は許さないと言いたげな瞳で、自分を見据える忍に、ナイトガンダムは静かに頷いた。 「・・・・・私も、機械工学に関してならそれなりに自信があった。だけど、ノエル達自動人形は遺失技術の固まり。 だからさくらにも頼んで・・・・ああ、『綺堂さくら』私やすずかの叔母ね。そのさくらにも頼んで昔の、それこそ純潔の『夜の一族』が 生存していた時の資料なんかを探しては読みふけったわ。幸い、古い資料はそれなりの保管状態で大量に見つかった。当然『自動人形』に関しての 資料も沢山あった。だけどね・・・・・何処をどう探しても、見つからなかったのよ・・・・・・・私が理解できない部分についての説明が」 「・・・・・・悪用を恐れて・・・・・処分したのでは?」 「なら、素体も一緒に処分する筈よ。それに資料に関しても処分してる筈。悪用を恐れて処分したのなら、あまりにも中途半端だわ」 自分の意見が直に否定されたため、次の意見を考えようとする。だが、それより早く忍が口を開く。 「さっきノエル達のことを『半ロボット』っていったわよね?言葉通り、彼女達は半分は人間なのよ。人間の体に身体機能の強化として 機械部品が様々な所で使われている。普通ならこんな馬鹿な事をすると、生身の方で拒絶反応を起こしたりするんだけれど、ノエル達の場合は 『夜の一族』の純血人の遺伝子によって作られた肉体が使われている。だから拒否反応なんかも無視する事ができるし、生身の部分の負傷も私達以上の速さで治るわ。 機械部品に関しても、そこだけ綺麗に取り外しが出来るがら、メンテナンスも簡単。まったく凄い技術よ、どっかの秘密結社じゃあるまいし、 素体を作った人に弟子入りしたいわ・・・・・・」 忍はソファに体を預け、右手を軽くオデコに当てながら天上を見つめる。そして、その状態から続きを話し始めた。 「ただね・・・・ふと思った事があるのよ。『こんな凄い技術をもった夜の一族は宇宙人じゃないか』って。正直真面目に考えていたわ。 行き過ぎた技術は勿論、『夜の一族』に関しての起源も資料の何処にも載っていない。正に『突然この世界にやって行きました』って言葉がぴったりと当てはまる。 まぁ、当然ただの妄想として処分しようとしていたけど、最近『突然この世界にやって行きました』って居候が現われたから否定できなくなっちゃったわ」 腹筋を使い、忍は体を預けていたソファから体を起こす。そしてキョトンとしているナイトガンダムを悪戯っぽく微笑みながら見つめる。 「これは私の推測、『夜の一族』は本当はこの世界『地球』の住人じゃない。元いた世界が崩壊なり何なりしたために逃げてきた人々ってね。あっ、もうこんな時間」 今の時刻を見た忍は一瞬顔を顰めた後、空き瓶と空になったコップを持って立ち上がる。 「ごめんね、付き合わせちゃって、それとありがとう。話を聞いてくれて。今日はたっぷり寝坊していいから。おやすみなさい」 「いえ、お礼を言うのは私の方です。話をして頂き、ありがとうございます。おやすみなさいませ」 恭しく頭を垂れるナイトガンダムに、忍は微笑みで返した後、リビングを後にしようとする。だが、 「一つ、言い忘れた事があったわ。ノエル達は『自動人形』って呼ばれてるけど、本来は別の名称があったの。本来の名称が物騒だったから変えたみたいね」 足を止め、ガンダムの方を向き、本来使われていた名称を呟く。 「『戦闘機人』そう呼ばれていたらしいわ」 戻る 目次へ 次へ